廃ビル集団乱射事件

「来たぜ。マジで仕事が早えな」


 アクテから追加で送られてくる、新たな登場人物は、


「“イケニ・カルテル”?」

「なんだって!?」


 文字通り跳び上がったアナーキーが、慌てて自分のスマートフォンからメールを開封する。

「おいおいおいおい、とんだ大物が出て来ちゃったよ!」

「知ってんの?」

「本家本元、総本山、メキシコを本拠とする麻薬カルテルの大御所だよ!秩序破壊に便利そうだから、一時期お近づきになろうとしてたなあ」

「ヘヴンってブツはそれだけヤバイのか?」

「イケニが出て来るんだったら、物としては結構人気商品っぽいね」

「そんなのが日本に何の用だよ。新規開拓なら北米だけで充分だろうが」

「例のジューディーがこの国を中から腐らせる為に招き入れた可能性はありますつまり奴らの掌の上ってわけですでもヘヴンとレギオンが結びついた場合ジューディーが焦っているのがよく分からなくなります」

「香ばしくなってきたわね!」


 何処と何処が手を組んで、結んで絡まり開いては繋がり、それがどの結果を生んだか。

 全貌が見えず、分析も困難。

 最後には想像で止まり、どの道も検証が不可能。

 地道に拾い集めても、更に混乱する羽目になる。


「まあいいんじゃない?前進ってことで。サンプルも拾ったしなんか出るでしょ」

「行くぞ。あのクソ野郎には目に物を——」


 ブロロロロォオオオン。

 

 エンジンが近づき表で止まった。

 目的地は、ほぼ確実に此処だ。

 此処とはつまり、ならず者共の行きつけの一つ。


「ちっ、どういうことだ。予約は無い筈だぞ?」

「駆け込みでしょ。結構ありそうじゃん?知らないけど」

「アナ、仕掛けはどんなカンジ?」

「ばっちり。みんなも下手に動かない方がいいよ?」


 誰にも咎められず、階層どころか棟一つを改造していたアナーキー。

 周囲は抜け目と油断の無さに舌を巻く。敵にしたら本当に面倒そうである。


「確認だけど、殺しは“”避ける、で良いんだよね?」

「だめだこいつ、ヤる気に充ちてやがる」

「まあどうせ暴力団同士の抗争で処理されるっしょ。いけるいける」


 言うが早いか、下階から衝突音と鳴き声。

「お、あれは秘密兵器ちゃん第24号、『部屋に入ったら横から建材が突っ込んで来るやつ』!」

「なんてもの作ってるんですかキミは!」

「いやー待ってる間暇でつい……。瓦礫なら沢山あったから、ね?」

「なら採集作業の方を手伝えって言ってるんですよ分からないんですかノンポリ空っぽテロリストめ!」


 ナードが詰め寄る間にも、響きは上へと昇って来る。

「あー、一つ良いか?」

「一応聞くよ?」


 ハックの言いたい事は、実は聞くまでもなく分かっていた。


「多くねえか?」

「大規模なのが来たね~」

「これ、丁度居合わせただけじゃないな?」

「………だとしたら」

 

 パラパラパラパラ

 階段を駆け上る複数人、いいや、十数人の靴音。

 その足並みには乱れが無かった。

 無さ過ぎた。

 訓練で調整された軍団のように。


「……ヤッベ全員一目散の準備ぃ!」


 言葉が届く前に、彼らは隣の心配もせずに走り出していた。

 昇り切った軍列達が、狙いを澄ますこともなく一斉射!


 ラタタタタタタタ!

 ダダダダダダダダダダダダダ!


 咄嗟に全員で横に有った入り口にダイブ・イン!

 問答無用で連射フル・オートを放ってきた恐るべきトリガーハッピー達相手にこの壁ではあまりに不足!


「数減らしたんだけどな!?」

「あれ何持ってた!?」

「CAR-15とAKの5.45とUZIは見えましたよ割と本気の装備ですね脅しではなく最初から殺害路線で招集されてるんでしょう!」

「アナ!何か出して!」

「僕のコートは四次元には繋がってないよ!」

 

 口吻を尖らせながら改造ネイルガンを全員分配るアナーキー。


「いや結構出て来てる!?」

「どこに入れてたんだそれ!」


 ナードは窓外を確認しつつ見張りがしっかり配されているのを見て舌打ちする。

 どうやらここからは出られないようだ。


「これから“キュウリ”投げ込んで一気に攻めるよ!」

「キュウリ!?」

「パイプ爆弾!」

「ならそう言え!」

「本当に何でも持ってますねキミは!」

「ホントはマジモンの銃火器が欲しかったけどね!」

「しっ!音を聞きたい…!来てるぞ……!」

 

 全員が物陰に隠れつつ入り口近くに陣取る。

 蝶番ちょうつがいがバゴンと壊され扉が蹴破られる。

 馬鹿正直に入り口を開けてくれたお返しに爆弾を一個投擲!

 裂発れっぱつ

 を認めた時点でカバーポジションから躍り出てネイルガンでまだ立っている敵を打ち貫く!

 アナーキーとハックが手近な銃を拾い上げ引鉄を押し込み数人を纏めて射殺!

 その間にナードは倒れている者達の頭に穴を開け、一発の弾丸で安心を買っていく。

 トゥイッチはげんなりした顔でそれらを見ており、参加する気は毛頭無いようだった。

 愚図愚図していると第二波が来る。

 追い込まれる前に車両の一台でも奪って逃れるが吉である。


「ァァァァァァァ!」

 カカカカカカカカ!


 またしても遠鳴。

 砲声も混ざる。

「どんだけ仕掛けてんだよ」

「我ながら頑張ったよねえ。にしてもちょっと引っ掛かり過ぎじゃない?そこまで多く用意したつもりも無いんだけど……」

「などと供述しており」

 口は軽いが歩行は重々しく。

 うっかり一歩多めに踏むだけで、良くて足が飛び最悪は脳が跳ぶ。

 兵士が乱射に乱射を重ねる、黄泉と地続きな修羅場へ降りていく。

 階段を、一段一段。

 狙われてない分、あらぬ方向から来る跳弾に注意して——


「ちょっとストップ」


 アナーキーが待ったをかける。


「忘れ物ですか必須なものなんでしょうね分かりました早くしてくださいさぞや重要な何かを落としたんでしょう」

「落ち着きなってナード。アナ、どったの?」

「………やっぱり、なんか変だよ」


 一度は頷きかけたその頭を、疑問がガシリと掴んで止めた。

 どうでもいいどころか、こちらに有利なその兆候。

 けれど予感は、危険だと告げている。


「いくら何でも、あいつら掛かり過ぎだ」

「あん?」

「だから!俺はそんな沢山は準備してなかったんだよ!」


 だが現実として、襲撃部隊はまだ苦しんでいる。


「だいたい、あいつら何を撃ってるんだい?俺の罠には、銃で解除するようなものは」「来るぞ!」


 ダンダンダンダン!

 踏音とうおん

 上階での交戦を感知して追加分が送られたか!

 四人はそれぞれの思惑によって構え、ある者は敵を殺そうとし、ある者は敵から離れようとし、

 減速無しでその前に飛び出した男。

 彼らを見て目を丸く開く?いいや、その恐怖は対面する以前から。

 襲いに来た側が逃げるように走り込んで来た。

 退却するならこちらでは無い筈だ。

 そのについて考察をするのを待たず、


 

 その男の側頭部に捻じ曲がった金属棒がぶち刺さった。



「~——ッ!!??」


 驚愕のあまりに声を出そうとし、衝撃が過ぎて喉が音ごと潰れる。

 それを為すには、理外の膂力が必要になるわけで。

 ハックが背中を貼り付けながら、ゆっくりと廊下を覗き込む。


 ゆうら、

 ゆらり、

 

 脱力して隙だらけ。

 左右に振れながら、酷くゆるゆると。

 歩いている?

 それとも倒れそうになった身体を足を出して支え、結果前へと位置がズレている?

 浮浪者だ。登る途中にも見た、薬物中毒者。

 警戒する程の相手ではない。

 目の前で人肉ケバブが出来ていなければ、だが。


「よし、音を殺して歩け。ゆっくりとでいい。ここから出るぞ」

 意思と方針の統一を図るべく一同の顔を見回し、ハックが再び怪人物に目を向け「トゥイッチ!」


 一緒に覗こうと乗り出していたところで襟首を掴み寄せられたトゥイッチは、バランスを崩し手をつっかけてなんとか転倒を回避。

 大声と不意打ちという突然の暴挙に苦言の一つでも呈してやろうと、



 ナードの首に沈み込む腕と、

 その持ち主である浮浪者を見上げた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る