逆襲計画
「本当にこんなんで上手くいくかなあ?」
「なんとかするんですよ。あの人の思慮の外に出るんです」
未だに乗り気ではないトゥイッチに、隣から発破をかけるアクテ。
「んなこと言ってもさあ……、君の話、信憑性はどうなの?これであの暴君を出し抜けるって?」
「ええ、必ず」
一人の少女が持ち込んだ、とある糸口。
そこから拡げ、無理矢理に形にした絵図。
ハマれば最高だが、前提が間違いなら敢え無く挫折だ。
「恐らくナオヤ様は、気付いていません。片方は目撃出来ても、もう一つの端緒は素通りして当然です」
「ま、全部が全部信用できるわけじゃないけど、これでマジだった時に一人だけ不参加だったら、脱落確定コースだもんね~…」
高価なチョコ菓子を一つ口に入れ、ファーを首に掛けサングラスも装着しリボンベルト付きのコートを——
「あの」
「なあに?」
「もう少しそれらしい格好は無かったんですか?」
「おめかししてるの!」
「私達は違法取引に向かっている筈では……?」
二人が居るのは、白昼の東京の都市部であるのに薄暗い、人が集まれば生まれる淀みの中。
目当ての相手に会えるのか、それが本当に「当たり」なのか、それも確信できぬままに、奥へと潜っていく。
『予想の一つ目は当たりだったようです最近この付近で殺気立った集団が活動していたとの証言があります外国人らしき者もね』
『潜伏するなら
『オーケー、これでオレ達の目標は決まった。琉解戦に場所を貸してた人間を探して、情報を得る』
『警察もスメラギもそれは調べている筈です今になってまだ確保されていない証人が居ますかね?疑問です』
「
『『『女の子……?』』』
「堪忍袋があったまってきたあ~」
耳に仕込まれたマイク付き小型骨伝導イヤホンから、賑やかな刺し合いの様子が流れて来る。
今回の作戦は懐柔を要にしたものである、ということは分かってくれているようだった。
だったら、もっと「お仲間」らしい見た目をしてくれないか、とは思うアクテだったが。
『無駄話はお終いですね来ましたよ今回の目標です』
「はいはい、ちゃちゃっと片付けちゃいましょ」
臀部を大袈裟に振りながら、現れた人物に近寄っていくトゥイッチ。
相手役の男は、豹柄の上着の下から胸毛を溢れさせ、肩で風を無駄に切る仕草は、「如何にも」といった風体である。
彼に渡りをつける為、チームは少しの間、近辺を訊き回っていた。
「この付近で大所帯が隠れられる場所はないか」、そう尋ねていたのには勿論理由がある。
“琉球解放戦線”が東京に無事到着したとして、ハイジャックのメンバーだけで計画を完遂するつもりだったのかと問えば、それは流石に無軌道が過ぎる。
こちら側であらかじめ複数箇所に分かれて待機し、機を窺って進軍に加わるつもりだった者達が居る筈だ。
彼らはその場所を探していた。
本人達は見つけられずとも、その痕跡だけでも追えるかもしれない。
何より今必要なのは、彼らがどのように過ごしていたのか、外から見た様相である。
彼らに接触した誰かが見つかるのなら、尚良い。
アクテの見出したヒントが有益なものか、それを判断したいのだから。
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「確かにそれが本当なら、オレ達の誰かは一歩近づけるのかもしれない」
「だが」、ハックは面倒そうに続ける。
「オレがお前らと組む事は無い。信用できない」
それは、当たり前。
だから王は、彼らにチームとなる事を許している。
「俺も同感だね。仲良しこよしする旨みなんて無くない?」
「難しいよねえ」
「………」
「何故そんな実現不可能とも言える考えが?」
難色を示されようと、アクテには響いていないよう。
反応は予測通りだったのだから、それで消沈する由も無し。
「あなた方が手を結ぶ事も出来る環境にありながら、ナオヤ様はそれを見過ごしています」
慎重に。
理が勝ちすぎても、筋道を失ってもいけない。
理由をはっきりさせ、彼らの直感に訴えかけねば。
「何故なら、一致団結して反乱を起こせるなんて、思っていないからです」
言ってやる。
軽んじられている。
おざなりに搾取して、問題ないとされている。
そして反抗しないなら、その評価が正当になってしまう。
「私が見たところ、それに誤りはないようですが、どうですか——」
——反論がありますか?
スラリ。
少女の耳の横を通過する冷閃。
背後で刃物のようなものが、壁に刺さり立ったのを感じた。
分かっている。捉えることはできていた。
コートから瞬時に武器を抜き投げたのは、鼻より下の表情を隠したアナーキーだ。
「あのいけ好かないハンサムが俺らをナメてるのは分かってるよお?だけど、お前みたいなガキにまで見下される筋合いはないよね?」
憤怒。
それでいい。
予定通り、期待に応えてくれた。
「俺にはプランがある。その準備期間ってだけだよ。自由になるまでの道は見えている」
「けれど貴方は、一人でそれをやろうとしている。だから無駄に困難になっているのでは?」
一同は少女への注視を強める。
単なる命知らずではない。明確に自分を殺せる威力を前にして、明晰な意思によって支えられ対峙している。
話を聞いてみるか。
好奇心が、彼らを交渉のテーブルに着かせる。
「私達は、お互いを信用できない同士、それはその通りでしょう。ですが、何か特定の目的の一致を見たのなら、その事についてのみ利用し合うことは出来る筈です。それぞれの最善の利益を引き出し合う事を前提に、ある最低目標だけは保証し合う」
「その『最低目標』ってのは?」
「決まっているでしょう。皇直哉に一杯食わせることです」
その場の生命の気配が獣に、或いは狩人になった。
彼女の発言は、その立場において酷く危うい。聞いている側にとってもそうだ。それ故に命を保つ為の本能が刺激され、頭がクリアに、そして好戦的になっていく。
その精神状態にとって、「自らを縛する不可抗力の排除」とは、とても魅力的で理に適っているように感じられてしまう。
人を結ばせる接着剤として、最も早いのは怒りである。
「あなたの為に」など聞く耳持たないが、殴りたい相手が偶々同じと聞かせられれば、そこに連帯と信が生まれ得る。
醜い本音が重なった時、それが嘘だと疑いたくなくなる。
仮初だが、10年来の親友の如き、厚き紐帯を成り立たせる。
「私があの男を褒めてみた時も、皆さんはあまりいい顔をしていなかった、いいえ、憎んですらいました。それが担保です」
彼らの王が四方で恨みを買っているからこそ、この同盟を成立させ易い。
「予想外を起こしませんか?彼が何を欲しがっているか、それは向こうが勝手に提示してくれました」
ならば、交渉の手札は容易に見つかる。
「私達を物のように弄んだ彼を、今度はこちらが振り回すのです……!」
「………先に辿り着けると?」
緑色の目を持つ巨人、スラッシュが初めて重い口を開いた。
意外そうに目を見張る者達の中で、
「勝算はあります。ただし、私一人ではダメなんです。それに
彼女は矢張り、目も身も逸らさず。
「私は、あの男への対抗手段が欲しい。このままずっと奴に怯えて生きていくなんて、ごめんです……!」
拳を握って苦痛に耐え、心身の自由を声高に叫ぶ。
わなわなと震えて不屈を訴え、
「お願いです。力を貸して下さい。あの男に勝ちたい、自由になりたいんです!」
涙を溜めて精一杯に、
王と敵対する彼女の案に乗って、
呉越同舟が受け入れられるのに、
そう時間はかからなかった。
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