捨て駒部隊
「以上がここまでで俺達が持っている情報だ。これを元に奴らの手口を導き出せ」
「分かったな?」、直哉が当然のように顎で使うのは、その部屋に集まった6名の男女。
めいめいそれぞれの感情を眼力に籠め、彼が立つ場所で軌道を合致させる。
とは言っても、それらは大雑把に二つと言える。
恐れか、怒りか。
所詮それだけの事でしかない。
最早随分と見慣れたもので「質問があります」
直哉は不快げに眉を
室内の気流が臆するように跳ねる。
手を上げて発したのは、隅で立っていた少女だ。
今日初めてこの場に顔を出した新入り。
探りを入れるような
「最終目標はなんでしょう?」
「何?」
「レギオンの捕獲?駆除?告発?国家の保安?逆に崩壊?それともジューディーへの攻撃でしょうか?手段も道順も、それによって決めるべきでは?」
「お前達が知る必要は無い。文句があるなら」「分かりました。こちらで調整します」
微妙に言葉に詰まる直哉だったが、直ぐに彼らへ向けて告げる。
「いいか?お前達の立場を」「それからもう一つ」
「なんだ…!?」
聞き分けが良いのか反抗的なのかまるで分からない。
彼女が何を思い、何を意図しているのか。
それに筋のある説明を用意できない。
「ナオヤ様は何をされるのですか?これまで以上に命を狙われることになりますが、その危険性は?この中から護衛を増員されては?」
「役に立たないだろうから要らん。どうせお前達は、こちらの当てが外れた場合のバックアップ。数には入っていない故に、大して期待はしていない。成果を出せずに困るのは、お前達だけだ」
「そして質問コーナーはここで締め切りだ」、直哉は背を向け扉の外へ。
出て行きざまに、
「アクテ、お前は暫くここで動け。賑やかしでも色仕掛け担当でも何でもいい。役に立って見せろ」
そのまま振り返らず去って行った。
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「こんにちは、カワイコちゃん?君結構やるねえ?私の事はトゥイッチって呼んで?それでこっちの大きいのはスラッシュ」
「………」
「彼無口だけど気にしないで?そもそも私達、本名すら明かさないような仲でしょ?警戒するのも尤もだし、慣れ合いは最小限にしようってこと」
「うるさいです本当に君はいつでもピーチクパーチク迷惑というものを考えない捲し立てることで相槌すら封殺して会話を楽しんでると言えますか?」「ナードお前、人の事言えないぞ」「心外な!心外!」
「この阿保はほっとけって。俺はアナーキーってんだよ。お前どっかで見た顔だね?」
「んあー?分からない?この子あれよ。沖縄であのクソ社長に花束渡してた」
「あの非効率極まりない施設の?孤児の悲劇を撲滅したいのだったら、まずは彼らの親を殺した武装勢力を潰すべきだな。その為には彼らに武器を売って私腹を肥やす奴を叩くべきで、それが誰かと言えば我らがボスを始めとする支配者共だ。つまり、自死を推奨するべきだ」
「お、いいねえハック。やっぱり政府ってクソだよなあ?」
一遍に浴びせられた、どうやら挨拶らしいそれらを整理する。
まずトゥイッチは中年の女。社交性と愛嬌だけで渡ってきたと見え、派手な化粧やブランド物らしきバッグも、けばけばしいが嫌味には見えない。
スラッシュは寡黙な大男。小さな黒目を
ナードは眼鏡を掛けた青年。キーボードを絶え間なく叩き複数の画面を前に八面六臂。白い肌に痩せっぽちで不摂生が察せられる。
アナーキーは、これはアクテにとって勝手知ったる人種だ。モコモコと膨らんだ髪は不潔、火薬の匂いを香のように焚き、コートの
ハックはナード以上に落ち着きのない女だ。逆立ったジャケットや髪で怒りを主張し、狭い範囲をぐるぐると歩いて不安を滲ませる。
「アクテです。よろしくお願いします、先輩方」
「あなたみたいな有名人、なんでこんなことやってるのかなあ?ああ、いいっていいって言わないでもいいよ。ここに居るのはワケありばっかりだからさ」
「面白い話ではないですよ?ただ命を救ってくださった恩を返したいと——」
「助けたあ!?」
半笑いで尋ねるのはアナーキー。
「あのお坊ちゃんが?人を?ありえないよ!結果的にそうなったってだけだよそれ」
「そんなことありませんよ。ご本人があまり出したがらないだけで、あの人には正義感があるのかもしれませんよ?」
「ないすじょーく、今のサイコー」
ハックはその場で机の上に背中から乗り上げ聞く耳を持たない。
「まあまあみんな、もっと仲良く、ね?」
「保育園の職員でももう少しマシな仲裁をしますよ。役に立たないなら浪費癖おばさんは黙っていてくれませんかね」
「あ゛あ!?その目ん玉くり抜いて指輪にしてやろうかあ!?」
「戦闘能力無い癖によくこんな強気に出れるよなコイツ」
「そういう無謀さが現状に繋がってるってことっしょ」
「アナ、それオレら全員に刺さってる。やめとけ」
和気藹々、と思えるだろうか。
が、その実はと言えば纏まりが無い。
切り捨てられれば道が途絶えるという危機感があり、
次に来るのが自分の番ではないことを望む。
隣に居るのは仲間でも家族でもない。
椅子取りゲームの敵プレイヤーだ。
これは骨が折れそうだ。
「ま、テキトーにやってりゃいいのよ」
「さて僕は今から“琉解戦”のリーダーの診断結果について整理しなきゃいけないんですよ君達に付き合っている時間が惜しいんです分かります?出て行ってください」
「へーい、好き勝手やらせてもらうぜ。行こうぜスラッシュ」
「ああでもハックには言いたい事が山積みですので居残りです」
「次は何作ろっかなー」
好きなように散らばろうとする彼らに対して、
「提案があります」
アクテが投じる一石は、
「チームとして動いてみては如何でしょうか?」
湖面に大波をざぶりと立てた。
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