接触
「——違法薬物による悲劇をこれ以上繰り返さない為にも、早急で具体的な対策が待たれます。それでは、次のニュースです」
「外国人売春斡旋組織が壊滅した事件の続報です。今回保護された児童は合わせて37名。そのほとんどが故郷で拉致され連れて来られた、在留資格を持たない子ども達でした」
「周辺諸国の紛争激化に伴って、近年増加傾向にある不法移民の残地児童問題。世論の同情の声の大きさに応える形で、『強制送還は適切でない』という政府首脳の非公式の談話が発表されて、今日で3日です」
「そんな中、本日12時。民間企業の主導による受け入れ施設の設置計画が発表されました。中心となるのは、今話題の渦中に居るあの人」
『私は何より、子ども達自身の意思が尊重されるべきだと思っています。帰りたいならその手段を、残りたいならその資格と場所を用意する。それが、私達大人が彼ら被害者に見せることができる、最低限の誠意ではないでしょうか』
「皇直哉氏のこの会見を受け、
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「皆さんの多大なるご尽力によって、この“黄金の園”を設立出来た事を、私は生涯の誇りと考えています。そして、祝福された子ども達の未来が、この場所の名の通りに明るく輝いていることを、切に願って止みません」
歯の浮くような台詞をにこやかに、しかし大真面目に語っているこの男。
内心吹き出さないように精一杯である。
実在すら信じていないのに「未来」などと嘯き、思ってもいないような理想論を騙り、果てには「子ども達の為」と来たものだ。
この雑な人気取りが、彼の風評に少なからず良い影響を与えているらしいのが、更に滑稽でならない。
揃いも揃って言葉や行動を、額面通りに受け取る愚民共。流石に心配になってくる。
ともあれ馬鹿らしく退屈である。
早く終わらないだろうか。
「それでは、本施設に受け入れ予定の子ども達から、皇直哉様を始め各関係者の皆様への、花束贈呈でございます。皆様、盛大な拍手でお迎え下さい」
パンパンパチパチ。
割れんばかりの、と言うには控えめな、けれど騒々しい歓待。
これが茶番だと気づいている者達がそこそこのやる気で叩いている為、総合的に見るとさして熱狂的には思えない程度の賞賛になっている。
ここに居るのが全員同レベルの蒙昧だったなら、ニジンスキーのように空前の歓声を浴びたりするのだろうか?褒め称えられることに大して悦びも無いが、かなり笑える状況ではある。そう言う意味では、予定調和的な今よりずっといいだろう。
てんで外れた物思いに耽りながらも、外面は嬉しそうに子ども達を迎える直哉。
彼の正面には、セレモニー用に正装で固められた少女。
年の頃は14・5歳くらいだろうか。ともすれば小学生にすら見えるが、栄養失調などから発育が遅れているだけで、実際はもう少し上かもしれない。
白いシャツに紺のテーラードパンツ。
褐色肌に黒髪黒目。
頭髪は長く、サイドテールで纏められている。
青い薔薇の束を抱えながら歩いて来た彼女は、直哉の前に立つとはにかんで微笑む。
片言の日本語であどけなく、
「センセ、アリガト」
そう言いつつ両手を掲げて手渡す。
「先生と来たか」
爆笑を必死に噛み殺した彼は、それをしっかりと受け取り、
「センセ、ナイショノハナシ」
少女は手で筒を作り、少し歩み寄りながら催促してくる。
「うん?」
マスコミやら聴衆やらの趣味に付き合ってやる為、彼は優しいお兄さんの顔で屈んで耳を近づける。
「何かな?」
「アノネ」
「————」
肚の底から出かかった棘と牙を、目撃される前に飲み下す。
二人とも他愛のないじゃれ合いのように、相手に笑いかけながら元の立ち位置に戻る。
「皇さーん!なんて言われたんですかあ?」
取材陣の一人から質問を投じられ、
「『秘密』だそうです。ね?」
そう言って顔を見合わせる直哉と少女を、皆微笑ましく見守っていた。
「では続きまして、子ども達による聖歌斉唱でございます。この日の為に——」
中身の無い前置きの後に、少年少女による『アメイジンググレイス』が響く中、穏やかな篤志家の仮面を崩さずに、直哉は脳内で算段を組み立てる。
——助けてくれてありがとう、黒騎士さん。
さて、
この厄介事を、
どうやって処理するか。
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