第二章 誤解!? 確信! 仕事!!

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「失礼いたします」

「行ってまいります」


 ロランとルイスに見送られ、ヤンに促されて、歩き出した。


「えーと、さて……どっから行くかなー」

「ヤンさん」

「ん?」

「訓練のお邪魔して、すみません」

「全然! むしろ楽できて嬉しい! ってこれ内緒で!」

「ふふ、はい、ヤンさんも新人さんなら、一緒ですね」

「おう。 二日だけ先輩!」



 ――なんか、犬っぽい人だなー! それにめちゃくちゃ話しやすい!



「キーラはさ、王都の子? それとも」

「あ、港町のリマニというところから来たばかりです」

「そうかあ、そしたら、王都のこともよく分からないかあ」

「そうなんです」


 すると、ヤンは周囲をキョロキョロしてから、声を潜めた。

 

「騎士団員って、こう、なんてーか女の子大好き! って奴もいてさ……危ないから気を付けて。俺で良かったら案内するからさ」

「はい」

「あっ、もちろん、俺が大丈夫な人って思ってくれてから。な!」

「ふふふふ、はい、もちろん」

 

 港町の豪快な漁師たちがひしめく食堂で、かわしながら働いてきた自負はあるけれど、それでも騎士となるとまた用心した方が良いかもしれない。


「ま、副団長のメイドって言いふらせば、大丈夫だと思うけど。じゃあ食堂から行こうか」

「はい!」


 演習場脇の渡り廊下のようなところを歩いていくと、何度も騎士団員たちとすれ違う。

 すれ違うだけでなく、立ち止まって「女の子だ!」って話しかけてくる人たち、思ったより多い。

 

 その度にヤンが人懐っこい笑顔で

「新人さんです! 副団長のメイドで、団長の専属事務官になった、キーラ」

 と紹介してくれた。

 最初の『副団長のメイド』でなぜか身構えられて、さらに『団長の専属事務官』であわれみの目を向けられる。

 

「大変だろうけど、がんばれよ」

「よろしくな……」

 が大多数の反応。

 

 でも

「かっわいいー! ねね、何歳?」

「今度ご飯食べに行こうよ!」

「どんな男が好き? 俺とかどう?」

 というあからさまなのもあり、屈強な騎士たちは、さすが迫力が違った。ずずいっと来られると、なんとか笑顔の表情を保つので精一杯。

 

「まーまー、先輩。いきなりは、びっくりしちゃいますって!」

 とヤンが間に入ってくれて助かったけれど、なんとなく容貌の特徴を『要注意人物』として頭の隅で覚えておいた。

 

 そしてようやく、食堂へ。

 木の長テーブルとベンチが、ずらりと並んでいる。

 その数だけで、たくさんの人たちが所属しているのだと分かって、圧倒された。

 

「あー、やっとついたー」

「ほんとですね……団員のみなさん、多いですね……」

「本部だからね。顔と名前覚えるのなんか絶対無理だと思うから、まず階級章の種類だけ叩き込んだらいいかもよ」

「なるほど! そうですね!」

 

 最低限、偉い人には気を遣わないといけない。


「ヤンさんて、いい人ですね」

「え! 嬉しいけど、判断早くない!?」

「ふふ、じゃあやっぱり用心します」

「それはそれでなんていうか……ふくざつ!」

「あはははは!」

 

 話しながら食堂の中を進んで厨房に近づいていくと、元気に動き回る女性が見えた。


「ロザンナさーん!」

 カウンター越しにヤンが呼ぶと

「なんだよヤン。つまみ食いならないよ!」

 とすかさず返ってきた。――つまみ食い!?

 ちろり、とヤンを見上げると、ばつが悪そうな顔をしている。

「違うよ! 新人さんが来たから紹介しに!」

「おやまあ、ずいぶんとかわいい子が来たねえ」


 エプロンで手を拭きながら近寄ってくる、恰幅の良い、おばちゃん! て感じの人だ。

 こげ茶色の髪と瞳に、ふさふさのまつ毛で、優しそうな笑顔。

 

「キーラです!」

「ロザンナだよ。むさくるしいところだけど、がんばりな」

「はい!」

「副団長のメイドで、団長の専属事務官なんだって」

「おやまあそれはそれは……銀狐と、ゴーレム男とはねえ」

「ゴーレム男? って?」

 ヤンが、肩をすくめて苦笑いをしている。

「岩みたいにかっちかちで無愛想で、でっかい団長のことだよ! わはは!」



 ――わあー。


 

「ここは、女は少ないからね。困ったことがあったら、遠慮なく言ってきな」

「はい! お世話になります!」

 

 ロザンナさんが明るくて、ホッとした。少ない女性が苦手な感じだと苦労するな、と思っていたから。それこそ、ソフィみたいな、ね。


 そして、その他の色々な部屋――救護室や、お手洗い、共同浴場(近寄るな危険! だって)、武器庫、書類庫、会議室などなどとても覚えられない――をぐるりとしてから、団長室に戻った。

 


 コンコン。


 

「ヤンと申します! 専属事務官殿を、ご案内いたしました!」

「……入れ」


 ――ごっきゅん。


 再び入室すると、金に近い薄茶色の髪の毛を整えた碧眼の、背が高くて逞しい男性が、書類を片手に壁の本棚に向かって立っていた。こんな見た目だったんだ、とようやくレナートという人がどんなか分かった。

 


「ご苦労」

「は!」

 

 ヤンが、目線で頑張れ! と言って、無情にも去っていく。

 部屋の中には、ゴーレム男、もとい団長の他は私しかいなくなった。


「……」

「……」



 ――どどどどうするよこれーーーーー!

 

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