第26話
「
「もちろん、嘘はつかないよ。体育祭で一位をとれなかったら僕が責任を取る。だから、もう一度だけ練習を頑張ってみないか?」
「う、うむ。わかった、やってみるのだ。」
「
憤る
「
「…………この、アホ。」
あきれ果てたかのように椅子に深々と座りこむ
「
「…………なんや、言ってみい。」
「体育祭のほかの選手にもドーピングをやめさせたいんだ。」
「はいぃ?」
信じられないことを耳にしたとばかりに
「いや、そんなんお断りやわ。ドーピングを止めさせるんは
そう言い放つと同時に僕の話には聞く耳を持つつもりはないとばかりに耳を手でふさいだ
今僕が考えていることはとてもじゃないけれど僕一人だけでできるようなことじゃない。
「へぇ、
「…………なんや、どういうことや。」
「いや、普段は悪人なんて人じゃない、悪は決して許されてはいけないなんて言ってたのに、結局ドーピングを目の前にしてもみなかったことにするんだなぁ、って思っただけ。」
僕の安っぽい挑発にぴくぴくと
「いや、べつに責めてるわけじゃなくて。ただ、
ギョロリとつややかな黒髪の間から恨めしげな目が僕をにらみつけているのに気が
つく。
――――――――――多分、
「あああぁぁぁぁ! わかった、わかったわ! 手伝えばええんやろ!」
「
「さて、もしかしたら
「それで、ドーピングを止めさすちゅうて、どないすればええねん? まさか選手全員にこれから説得して回るわけやないやろな?」
「いや、そんなことはしないよ。そこで
訝しげな
「ドーピングにつかってる薬はたぶん村の商店に頼んで、"郵便屋"を通して手に入れてるんだと思う。なら、その薬を入れ替えれば選手の人たちをだますっことができるんじゃないかな?」
ドーピング用の薬物は当然生徒が一から用意しているわけではない。必ず市販薬から成分を抽出して手に入れているはずだ。
ということは、もしもその市販薬を特定し、そして無害のものに入れ替えることができればドーピングは防げるわけだ。
「
自分でもかなり危ない橋を渡っているのは理解している。確実に犯罪だし、もしも入れ替えている最中に捕まれば少年院に行くことになるかもしれない。が、僕にはこのほかに方法が思いつかなかった。
説明し終えた僕の目の前で、
「
シクシクとなにかを悲しんでいる
「それじゃ、よろしくね?」
「う、うむ。」
目を泳がしながらも、
夜の運動場に荒い呼吸音が響き渡る。はるか先をかける
僕と
このまま夜明けまで練習したのち、朝早くにカーテンを締め切った化学室まで戻る。そして授業を完全にサボって泥のように眠りにつくのがここ最近のルーティンであった。
真っ暗な運動場を二つの人影が何往復もする。
つい先日まで引きこもっていたのが噓のように
しばらくして遠くの山際から真っ赤な朝日が昇ってくる。練習終了の合図だ。
ばたりと二人してグラウンドの砂の上に寝転がる。荒い息を整えていると、遠くから
「なにも、
あきれた口調で
「いや、
「ふぅん、そんなもんか………。」
僕の言葉を理解していない風に生返事で横に流した
「多分やけど市販薬も特定できたし、入れ替え用の薬も用意の目途がたったで。調合でき次第すぐに村の商店まで行ってくるわ。」
「いや、そこまで任せるわけにはいかないよ、せめて入れ替えは僕が………。」
「ええねん、そないなことはうちがやったる。そもそも薬調合した時点で共犯者や。それに村には用事があるしな。」
「じゃ、また化学室で会おうな。きちんとその体操着は着替えてくるんやで。」
立ち上がって遠ざかる
しかたがない。僕はゆっくりその手を握り、獅子王 《ししおう》を助け起こす。そして手を握ったままシャワー室に向かった。
例の約束をしてからは自重してくれているのか、
しかし、完全に僕への依存を断つことはできなかったようで、
少しでも拒絶してしまったら
ばっと校舎の二階を見あげる。窓からちらりと銀にきらめく髪が視界をかすめた。
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