第22話
あの日から、
だが、これが体育祭の最有力候補である
教室は今日もその話題で持ちきりだった。気の早い生徒はかけ金の賠償請求まで話し始めている。
僕は昏く沈んだ気持ちを抑えこみながら、教室を後にする。ほこりだらけの誰も使っていない男子トイレに駆けこんだ僕は、
何食わぬ顔をして歩いてきた
「
「ふぅん、そっか。」
僕はまだその情報を受け止め切れていなかったからだ。
「……ただ、その。ほとんど廃人みたいになってずっと天井の一点を見つめて一日を過ごしてるって。」
化学室から走り去ってからこのかた、
果たしてあの時僕がかけた言葉は間違っていたのだろうか。罪悪感に押しつぶされそうになりながら僕は報告を追える。
「さて、ほならそろそろこっちの準備もそろったことやし、カタつけよっか。」
ひらひらと数枚の葉書をかざしながら、
おそらくは、これで
暗い顔に気がついたらしい
「まずは
「それで、わざわざこんな辺鄙な我が家まで来ていったいなんの用ですかな?」
そんな
「こらこら、自分の指示なしにそんなことをするものではありません。曲がりなりにもそこの
「今日は、
「ほう?」
僕の言葉に
「それはそれは、ずいぶん乱暴な話ですね。ですが、自分がただで金づるである
「
目を見開いたまま
「よく気がつきましたね。正直なところ、完全に騙されたものだと思っていたのですが。」
「それは僕じゃなくて僕の友達に言って欲しいな。僕は全く気がつかなかったから。」
ずいぶんと優秀な協力者をお持ちで、とつぶやいた
「しかし、それがいったいどうしたというのです?
「まあ、それはそやな。」
今の今まで沈黙を守ってきた
恐らくは
「ええと、あなたは
「そんなつれないこと言わんとってや。うちは実はおたくの
鼻をつまむそぶりをしながら
「ほら、これ。
「それがどうかしましたか? ここの生徒なら誰しもがそうでしょう?」
「葉書……?」
訝しげな
「いや~、
そう、
正直、頭がおかしいと思う。
「それでな、話してみたらな、意外と話があったんよ。あちらのご両親はきちんとした方々でな、ドーピングなんてこと許されんと怒ってはったわ。」
――――もし、もう一度娘はんがやらかしたら、今度こそ高校止めさすって。
それは直接的な脅迫だった。
「……あの馬鹿が。だからあれほど自分は煙草を止めろと口うるさくしたというのに、まだやめていなかったのか。」
「いいでしょう、
あっさりと
僕の視線に気がついたのか、
「できることなら
「必要がない?」
思わせぶりな
「なに、簡単な話、今の
ギィッと木製の扉が開かれる。その奥には粗末なベッドしかない、暗い小部屋があった。
じめじめとした、陰気で嫌な部屋だ。天井付近に設けられた小さな窓から差し込むわずかばかりの日光だけが部屋の証明であるようだった。
「さて、念願のご対面と行きましょうか。」
思わず僕は部屋の中に駆け寄って、その姿を目にした途端、呼吸が止まる。
「それでは、あとはごゆっくりどうぞ。この山小屋に自分たちはもう用がありませんから。」
背後から聞こえる
虚ろな瞳に、ぶらんと垂れた腕。半開きになった口からは絶えず言葉にならない音が漏れ出ている。
そこにはかつての活発な印象から変わり果てた
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