第20話
コツコツとチョークが黒板を叩く音がする。体育祭も近づいたとある日の午後の教室はスカスカで、まともに授業を受けているのは数人だけという有様だった。
先生が書き記す要領を得ない板書を頬杖をつきながらとる。一番僕の苦手な化学の授業だからか、僕は反応式もそっちのけでうわの空だった。
今の僕の前にはひどく悩ましい問題が山積している。
しかし、それに匹敵するほど厄介なのが、僕の隣の席に座る少女だった。
「その、
「あら、
うっすらと冷たい笑みを浮かべた
いったいどうすれば
さすがに僕も
「なんや、
耳元で快活な声が聞こえてくる。
バッと顔を前にむけると、いつの間にかすぐ前の椅子に腰かけていた
「どれどれ……。」
「いや、
どうしてよりによって
事態のさらなる悪化を阻止するため、僕は必死に
「いやいや、気にせんでええって。友達同士助けあうのは当然やんか、なぁ。質問されて意地悪するほどうちの器は小さくないねん。」
パキリ。
教室の窓枠にひびが入った気がした。室内の空気が数段重くなる。
すでに宣戦布告をしてしまった
「……問題文、上から三行目。ヨウ化物イオンの濃度が一定である条件を見落としているわ。」
「あ、ほんとだ。」
「しかたがないわね、
「あ゛?」
意趣返しとばかりに口にされた皮肉に
手が白くなるほど拳を握りしめた
「それで、ほかに困っとることはあるか、なんでも答えたるで?」
「いや、今は特になにもないかな…。」
あっという間に剣呑になってしまった雰囲気をこれ以上悪化させたくなくて、僕は首を必死に横に振る。
それでも
「そないに遠慮せんでもええんよ? あるんやろ、
「
そんな小さなことを気にするほど
かつての発言がブーメランとなって
ギョロリとした生気のない瞳が僕をにらみつける。質問しなければ確実に殺されると確信した僕は教科書の適当な箇所を指さした。
途端、
「ああ、緩衝液の話やな! 確かにそれはわかりずらいわ、うんうん、わかるで!」
「ほら、わたしの手元を見なさい。いい、緩衝液というのは仮定が大切で……。」
目を逸らしたら酷い目にあうことを経験的に知っている僕がそのまま
「賢い賢い
今度こそは答えてやろうとした
「聞いているかしら、
いつの間にか鋏を持っていた
「いやいや、目の前に邪魔なもんあったからつい手が滑ってもたわ。ごめんな? で、
ゴーン、ゴーン。
授業終了のチャイムの音が鳴り響く。それと同時に
「あら、誰かさんのせいで授業中に質問が終わらなかったわね。」
先生を含め、教室で授業をしていた
僕と
「ふうん、奇遇やね。うちも同じようなこと考えとったわ。」
「まあ、いいわ。
名前を呼ばれた僕はびくりと体を震わせてしまう。今の
まるで
「今までの間違いには目をつむってあげる。画集のことも、
僕は目の前に差し出された
「なにを迷うことがあるのかしら。前にも言った通り、ドーピングをするかしないかなんて赤の他人であるわたしたちに口を挟めることではないわ。それはすべて自己責任でしょう?」
なかなか返事をしない僕に苛立ったかのように
「さあ、わたしと一緒に戻りましょう?」
そして、僕はその手を振り払った。
払われた手をじっと凝視する
「い、
「ごめんだけど、
払われた手をもう片方の手でぎゅっと握った
「いや~、よく言った! それでこそ
「………
喜色を満面に浮かべた
それでも
「ほな、そういうことで! 残念やなぁ
皮肉を吐くことを忘れない
「ぁ、
まるで迷子の子犬のように立ちつくす
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