第18話
シュー、ゴトゴト……。
沸いた水が奏でる喧噪に、僕の意識が覚醒する。ここに来てからもう数日は経つのに未だ聞きなれない音に、僕は体を起こした。
起き上がった僕の視界に、空虚な化学室の光景が広がる。整然と並べられた実験台の中に一人横たわっていた僕は、遠くから湯気をたてるカップ片手に近づいてくる
「ほい。」
「ありがとう。」
一切の光を飲みこんで放さない暗黒の液体がチャプチャプと波をたてる。
すでに秋も終盤に差し掛かってきて、いよいよ体育祭の時期が近づいている。朝はすでにすこし肌寒くなってきていた。
「今日やったな、
「うん、そうだね。」
画集から得た情報をもとに、僕たちはかつてドーピングを手伝ってもらっていたという
「でも、ほんとうに
その代わりに僕は適当な話をして思考を逸らすことにする。同じく隣の丸椅子に腰かけてコーヒーを啜っていた
「悪人ちゅうのが絆なんてもっとるわけないやろ。悪事でつながった縁ちゅうのはその失敗で簡単に憎しみに転ずるっちゅうもんや。ドーピングがバレた責任を互いに押しつけあって顔もあわせとうないんちゃうか。」
「だからって口を割ってくれるかどうかはわからないじゃないか。」
「いや、嫌いな奴の悪口なんて聞いたらなんぼでも出てくるやろ。後はおだてて気持ちようさせて余計なことまで口走らせるまで簡単や。」
「それじゃ、そろそろ行くことにしよか。」
今回の
朝早く人の気配がまったくしない校舎を二人して素早く後にする。ほかの生徒、特に
しばらく人目を忍んで歩いていると、池の傍に背の高い影が見えてきた。まるでナナフシのように骨ばって細い手足を所在なさげにぶらぶらさせているその姿はまさしく
「おはよう、朝早くからごめんね。」
警戒されないよう顔見知りである僕から声をかける。
「驚いたな、アタシより背高い女子の生徒がこの高校にいたのかよ。」
シュボ、とライターで口元の煙草に火をつけながら
「それで、例のダチはドーピング止めれたかい?」
「いや、まだなんだ。」
「なんだ、ライバルが一人減るって期待してたのによ。それで今日の要件はなんなんだ? もう一度呼び出したんだ、またなんかあったんだろ。」
煙をふかしながら
「それで、今回も実はその友達の話でね。ドーピングを止めさせるのにもしかしたら
「なんだ? 泣き落としのお手伝いだったらアタシは無理だぜ、他をあたんな。」
「いや、その友達の支援者が
僕がその名を口にした途端、
「……
「うん、その中学時代知り合いだったんでしょ、なにか話が聞けないかなって。」
「もしかして、あんたの言ってるダチって
「うん。」
「どうして、どうしてもっと早くにそのこと言わなかったんだよ……。」
「へっ?」
「どうしてアタシに
どうやら
「で、あたしはなにをすればいい!? なんだってやってやる、薬でも盛るか?」
「あ? そういえばあんたは誰だっけ?」
「どうも、
突然前に出てきた
「実はな、今うちたちは
「ふぅん。まぁドーピング止めさせるのに根本断つのは定石だな。それで、アタシに
「まあ、いろいろと性根の悪い
「別に
「ほなら教えてくれへんか!」
「な、なんだよいきなり。」
「あかんのやったら今度はもう暴力に訴えるしかないねん! 頼む!」
「おいおい、暴力は禁止されてるんじゃなかったのかよ……。」
「頼むで、な、な!?」
「ええい、離れろ!」
僕は普段と様子が全く違う
「まあ待てって。アタシもいろいろと記憶を整理しなきゃいけなくてな。今さっと口にしろって言われても難しいんだ。また今度会うってのはどうだ?」
「うん、それでもいいなら別に。ありがとうね
「いいってことよ。じゃな。……あと、あの
先ほどまで奇行のせいか、
「ねぇ
それを見届けてから僕は隣の
「うちの読み外れてしもたわ、あれは黒やな。」
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