第14話
「ああ、これはこれは
じっとりと冷や汗を流しながら、
「あらあら、そんなに卑屈にならなくてもいいじゃない。この高校で体育祭の賭けの元締めをするだなんて、普通の人にはできないことよ。」
当然だが、賭けをするためには地位を確立している元締めが必要である。生徒たちの賭けた金を回収して保管し、そして結果が明白になった後、公正に勝利した選手と賭けに勝った生徒に金を配分するためにはなによりも権威と暴力に裏づけられた信頼が欠かせないからだ。
代々の体育祭において、その元締めという地位と利権はその時のもっとも権勢を持つ生徒へと受け継がれている。しかし、今代に限っては、話が違った。
だからこそ、先代の元締めは苦渋の決断として、次代の元締めの正体を明かさないことで信頼性を担保しようとした。当然であるが、誰も正体を知らなければ預かっている賭け金を強奪するなんてことはできない。
そして、今、
「どうやって、そんなことを……。」
「わたしは"銀行屋"だもの。帳簿の数字をつき合わせれば、賭けの儲けが最後にはどこに流れていっているかぐらいはわかるわ。」
「ほかの生徒にはこのことは……?」
それは、
全てが暴力と欺瞞、不正にすぎない
だからこそ体育祭に生徒は熱狂するのであるし、だからこそ高校の支配者たる代々の元締めは賭けを慎重に運営して一種のガス抜きとして利用するのである。
それがもし賭けの背後で元締めが特定の選手に肩入れしていたと知られればどうなるだろうか。当然であるが極悪非道な
そうなってしまった後の元締めの末路を僕は想像すらもしたくなかった。
まず間違いなくあの
永遠にも思える沈黙ののち、
「口にしてなんになるというの? わたし、面倒なことは嫌いなの。」
やがてヨロヨロと立ち上がった
「あ、ああ。先ほどは失礼な口をきいて申し訳ございません。まさか
先ほどまでの冷徹な姿とはうって変わって媚びるような笑みを浮かべながら
その変わり身の素早さっぷりをどこか滑稽に感じながらも、これで
「
「それは、いったいどういったおつもりなのですか?」
「別に、
いつもの見慣れた笑みの奥底に、絶えず一緒にいた僕でもなければ気づかないような感情を読み解く。
ムキになって企んでいた仕返しの悪戯が成功した悪ガキのような、意地悪げな顔つきである。
僕はその時になってはじめて理解した。確かに
まずいことになったと僕が確信した時にはすでに時が遅かった。
「そうね、友人の義理としてわたしは
簡単な話よ、もしも
「その、力で、というのはダメですかね?」
「ええ、そうよ。
そして、僕としても
僕と違って
「さて、わたしの提案に従ってくれるのかしら?」
悔しいながらも、
「なら、話はこれで終わりね。
図書室への帰り道の廊下にて、僕は目の前を歩く
「
「……それよ。」
「え?」
「いつまでたっても
「あまり言いたくはないのだけれど、とても妬けてしまうわね。」
それは、底冷えするような声だった。
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