第13話
用心棒をぞろぞろとひきつれた
体育祭において、いったいどこに敵対する選手の密偵が忍んでいるとも限らない以上、支援者と選手の間の会話は特別に秘匿すべきなのは常識である。ただ、それは僕たちにとっても困った話だった。
ああも公然と教室前の廊下に陣取られてしまえばのぞき見はおろか当然聞き耳を立てることすらできないだろう。
「さて、困ったことになったわね、
「ほら、あそこにあるじゃない、ちょうどいいところが。」
廊下の窓からはちょうど空き教室の向かい側にある古びた校舎の外壁が見える。もしかするとあちらの教室から空き教室の中の様子をうかがえるかもしれない。
他人の会話をひそかにのぞき見している背徳感と緊張に体が固い僕と対照的に
僕たちは
まるでスパイにでもなったかのような奇妙な体験をしながら
が、当然だが声は全く聞こえるはずもないので、内容は推測することすらできない。憔悴した様子の
ようやく二人の話に決着がついたらしく、
その後ろ姿に向かって
呼び止めた
そうだ、
衝撃の事実に揺れる僕の脳に先ほどの
「もしかして、
「いいえ? でも十分推測できたことよ。」
思わず口をついて出た問いかけを
空き教室には
居てもたってもいられなくなった僕は勢い良く立ち上がると、空き教室目掛けて走り出した。笑みを浮かべたまま何も言わないでいる
今がまさしく絶好の機会だった。
そうならない前に、僕はなんとしてでも
「
息を切らしながら空き教室に飛びこむ。膝に手をついて荒い息を整える僕は息も絶え絶えになりながら
「いえいえ、とんでもない。自分こそこの時を待っていました。」
ようやく顔をあげた僕の前には、あの日の夜と全く変わらない柔和な好青年のようにみえる
「
「ええ、
気弱そうな笑顔を浮かべた
「それじゃあ、僕が
「はい。確信とまではいきませんが、だいたい推測していました。」
「それなら話が早いかな。
「それはそれは。まさしく単刀直入に頼んできたものですね。」
とにかく僕はすぐに本題を切り出すことにした。僕が頭をさげると
「それで、どうかな。
「はいはい、
「だったら……。」
僕は期待に胸を膨らませた。そうだ、なにを心配することがあったというのだろう、
だが、そんなぬか喜びをする前に僕はよく考えておくべきだったのだ。この
「残念ですが、それでも自分は承諾しかねますね。リスクが大きすぎる。」
顔を持ち上げた僕の前にいたのは、冷徹な計算を働かせる一人の
「簡単な話でしょう? ドーピングをしないよりもするほうが勝つ確率が高まる。自分は
「それどころか、
今までの好青年の仮面を脱ぎ捨てた
僕は悟った。この目の前にいる人間は
「わたしの
鈴を鳴らしたような声が聞こえる。とたん、あれほど余裕たっぷりだった
まるで自分よりも恐るべき死神に出くわした怪物のように冷や汗を額に浮かべる
僕の背後からにゅっと
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます