第11話
僕は
「アンタほんとにバカなんだな?」
それが僕の疑問に対する
「アタシたちがただ走りたいから体育祭なんかに出るかよ。アタシたちは当然勝ちたいから競争するんだ。」
麻薬に陶酔するかのように
「走るのが好きってんなら話は簡単だ、山でも原っぱでも勝手にどうぞってんだ。そうじゃなくて他人と競うってのは、勝ちたいからだ。アタシたち陸上やってる連中は隣を走るいけ好かない同類よりも上に立ちたいからスタートラインで構えるのさ。」
「だから、体育祭にでるような奴が勝てないと知ってドーピングをやめるはずなんかねえ。それは本末転倒ってもんだ、勝つために生きんのに生きるために負けたら意味ねえだろ?」
まるで地獄の餓鬼のように勝利に飢えた目つきをした一匹の獣がそこにいた。落ちくぼんだ目の奥で獰猛に
「だから、アンタがそのダチが心配だってなら、勝利を諦めさせるしかねえ。そうじゃなけりゃそいつは死ぬまでドーピングを続けるだろうな。」
がんばれよ、と軽く僕の肩を叩いた
「さ、これですこしは考え直す気になったかしら?
「でも、ドーピングをしてしまったら体がボロボロになってしまう。」
「ええ、でもそれがあなたになんのかかわりがあるの? 気になるからといって他人の人生に口出しできるほどあなたは偉かったのかしら?」
僕の異論をまったくもって正論ですぐさま封じこめる
「でも、僕と
心の中の思いをそのまま吐露する。
「あらあら、ずいぶんとあなたと
「これが良いことだったのか悪いことだったのかはもっと時間が経ってから考えることにするよ。ただ僕は後悔だけはしたくないんだ。」
僕の言葉を
その背中を追いかけながら僕は空き教室で目にした
「もしもあなたが本気でドーピングを辞めさせたいというのなら、そもそもの入手手段を断つことを強くお勧めするわね。残念なのだけれど
図書室に戻った
「
空き教室で
そう考えたところで、僕はふととあるひとつの疑問に至った。果たして体育祭に出場する選手たちはどうやってドーピングの薬を手にしているのだろうか。
そもそも薬局でそういう薬物が大っぴらに売られているわけがないし、違法ではないにしても入手手段は大きく限られるだろう。外界との接触がほとんどない
「いったい
「普通ならインターネットでとなるのでしょうけれど、この高校ならそれは無理ね。なら選択肢はもうほとんどないも同然よ。恐らくは薬物を自前で製造している生徒がいるわね。」
薬品の製造だなんて一介の高校の生徒ができるはずがない。特に不良揃いの
「簡単な話よ、市販薬からその成分を抽出すればいいの。恐らくは知識ではなく経験則、それも何年もの試行錯誤で方法を編み出したのでしょうね。」
「昔、アメリカ、風邪薬から、ドラッグ、取り出す。カルテル、競合。潰す、時間かかった。」
どうやら実際に大規模にそういった犯罪が蔓延した時期があったらしい。世界の広さに顔をひきつらせた僕を尻目に、
「はじめは本当に純度が低かったでしょうね。それを何世代も改良を重ねてそれだけノウハウも蓄積していった。
僕の脳裏に深夜の校舎でゴソゴソと薬品をいじっている生徒の姿が思い浮かぶ。確かに、
「だから、まずは薬物の売人を特定するところから始めなければいけないようね。でも、あまり難しい話ではないはずよ。」
「さらに、最近は体育祭が近づいてきたからか選手ひとりにつく護衛の数も増えたわ。安全と引き換えに彼らの動向はとても掴みやすくなっている、それならば
が、それから一週間たっても
それどころか、
いったい
僕の疑問は深まるばかりで解決する気配を一切見せなかった。
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