第9話
「あなた、まだ
「ねぇ、
「あら、つれないこと。こんなにもわたしが話しかけているのに、聞こえないふりを続けるの?」
まだなにか言っている
バシャリ。
白黒の文字と余白で構成されていた僕の視界が茶色に染まる。顔をあげると、無表情の
「ごめんなさい、つい手が滑ってしまったわ。」
白々しく弁明しながら
「これで、ようやくわたしの話を聞いてくれるわね?」
口角をあげてはいるが、目が笑っていない。どうして
「えっと、本ばっかり読んでてぜんぜん話を聞いていなかったや。ごめんね、
「ええ、ええ、わかっているわ。
どこかすねた様子で
「い、いやそんなことはないよ。わー、
心にもないことを棒読みで口にする。むろん、そんな嘘は
「…
大根役者の僕では三文芝居すら演じることができなかったようだ。僕は誤魔化すようにぎこちなく笑顔を浮かべてみる。
「そうね、そんなにわたしとお話しするのが嫌だというのなら、機会をあげましょう。」
「まさか、今から神経衰弱でもするんでしょうか…?」
「ええ、簡単なゲームでしょう? あなたが勝てばあなたはもうわたしの話を聞かなくて結構。わたしもあなたを煩わせることはしないわ。」
「もちろん、あなたが勝つまでわたしと楽しくお話ししてもらうのだけれど。」
どこかウキウキとした様子の
かつて僕が
「さあ、最初はあなたからどうぞ?」
コケコッコー。
存在しないはずの鶏の鬨の声を幻聴する。朝日の清々しい光が差しこむ中血走った目で
その間に僕たちは、神経衰弱、ポーカー、ブラックジャック、七並べとトランプを使ってできるありとあらゆる遊びに触れている。今僕は
目の前では
徹夜の疲れなど一切感じさせぬ普段通りの笑顔だ。
もう片方のカードをつまんでみる。それでも
ええいままよと覚悟してそのカードをひく。確率は半分であるはずなのに、今度も僕が引いたのはジョーカーだった。
「そ、そんなばかな…。」
「あら、ハートの2。そろってしまったわ、わたしも運がいいのね。」
椅子にくずおれる僕を横目にあっさりと僕の手札からカードをひいた
「また今度もわたしの勝ちね。」
トランプの山に二枚をそっとのせた
「さあ、もう一度しましょう?」
絶望と眠気でもう気力がすこしも残っていない僕は、
あれ、
疲労のあまり視界がぶれて幻覚を見始めた僕は、ふと
ぼんやりとした意識のまま
「
困惑した様子の
「
とたんくすぐったそうに身をよじりだした
ジョーカーのカードだ。確かに僕が山札に戻したはずの。
僕は次第に意識が覚醒してきた。つまり、この
もしもの話なのだが、最後の二枚になった時点で二枚ともジョーカーのカードになるようにすり替えておけば、相手は絶対に上がることができないだろう。ここまでのババ抜きの試合すべてで必ず最後の二択を外し続けてきたことを僕は思い出す。
ああ、と僕は絶望した。もしかして
「あら、気づかれてしまったわ。」
恐らく数奇院はこのほかにもたくさんのいかさまをしてきたのだろう。そうでなければいくらトランプでの遊びの実力があったとしても全勝することなど不可能なのだから。
が、時すでに遅しである。
「一生のお願いです、なんでもしますからもう寝かせてください……。」
絶望にさいなまれて突っ伏す僕は、
「
「うん、ごめんなさい…。」
「あなたがどれだけいけないことをしたかわかってくれたかしら。それじゃあ、
「
「それでいいのよ。」
「さあ、こんな一晩中起きていて疲れたでしょう? もう眠ってもいいわよ。」
「そういえば、明日はなにか用事があったりするの? もしお望みならわたしが時間になったら起こしてあげるわ。」
「ああ、明日は
意識が朦朧としたまま思いついたことをそのまま口にしてしまった僕は瞬時に自分の過ちを悟る。よりにもよって今の
胃がキリキリと痛むような沈黙が広がる。
「
背後からの
「さあ、もどってきなさい。続けるわよ。」
僕は僕のおっちょこちょいな口を呪いながら踵を返した。
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