第8話
白い液体が注射器を伝って、
「あ、え、
僕はすでにひき返すことができないようだ。僕は確かに
「ち、ちが、
慌てて注射器を背中に隠しながら
「信じたくはなかったかな、
「あ………。」
ようやく僕にドーピングの件がばれてしまったと気がついたらしき
今の今まで針が刺さっていた白い肌の上にぷっくりと毒々しいまでに赤い血の珠が浮かぶ。無数に注射の跡が残っているその手首は直視するにはあまりにも痛々しかった。
「いや、確かにこれはドーピングかもしれないが、たいしたことはない単なる栄養剤を打ちこんでいるだけで、吾輩は規則を破っているわけではなくて、」
「その薬ってホルモン剤なんでしょ。それも体に悪い。」
なんとか抗弁しようとする
「確かに、
しばらくの沈黙の後、
「いつからしていたんだ? もしかして去年から?」
もし去年も薬のおかげだとするならば、僕はもう二度と純真に前回の体育祭での感動的な勝利の喜びを懐かしむことはできないのだろう。
「い、いや、違う! 薬を使い始めたのは今年からだ、去年は確かに吾輩は自分の体だけで一位をとった!」
慌てたように
「わかったよ。それじゃ、教えてくれるかな。どうして今年からよりにもよってドーピングなんてことに手を出したのかな?」
「それは……。」
「勝てるかどうか吾輩が自信を持てなくなった、のだ。」
去年、
「今年、
同世代の中学生の間では敵なしだった
それが全てひっくり返ったのは、
なんと
「確かに
畏怖の感情をこめて
「そんな
「
「だから、ドーピングに手を出した、と。」
僕の言葉に硬い表情の
この胸にモヤモヤと渦巻いている判然としないこの感情ははたして失望なのだろうか、それとも悲哀なのだろうか。ただ心がいっぱいになった僕は静かにため息をついた。
その瞬間、
「い、
半ば半狂乱に陥りながら
「わ、わかったから、
「なんでもする、なんでもするから吾輩に失望しないでくれ、吾輩からはなれないでくれ!」
気が狂ったかのように僕の名前を連呼しているのを落ち着かせるのに僕はしばらくの間ずっと
ズビッ。
「ほ、ほんとうに
「もちろんそうだよ。だいたい僕たちは友達でしょ?」
「それならいいが……。」
それでも
「すまない、
僕がなおも頭を撫で続けていると、ようやく
まったくもってその通りだ、そういつものように冗談を飛ばそうとしてとっさに控える。僕は今の
そのかわりに、なんとかやんわりとドーピングを止めさせられないかと頭を働かせる。しばらくして僕は慎重に言葉を選びながら口を開いた。
「そのさ、
僕の言葉に、
「
「…………。」
「ドーピング、やめたほうがいいんじゃない?」
途端、
「だ、駄目だ! それだけはできない!」
マズい、言葉選びを間違えたらしい。興奮している
「どうして、駄目なのかな?」
「…………。」
僕の問いかけに、
理由を教えてくれなければ僕としてもどうしようもない。途方に暮れている僕を尻目に、
「………そうだ、絶対に吾輩は一位を取らねばならないのだ。そうでなければ、吾輩は…………。」
ブツブツと意味をなさない言葉を呟きながら、
「待って、
叫ぶも、もう遅い。校舎の奥へと消えていく
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