第7話
今日も今日とて
徒競走やリレーといった賭博の対象となる種目に出場する選手たちが、数人の護衛に囲まれて練習に励んでいる。脇には水筒を携えた助手がいるなどまさに至れり尽くせりだ。
そのなかでも、ひときわ多くの生徒に守られている選手がいた。
短髪の黒髪をたなびかせながら、
運動場に集まる生徒たちの欲望が渦巻き剣呑な雰囲気が広がる中、
あの日、
ドーピングは
僕は未だその意見になんら反論することができなかった。どこか心の中で納得してしまっている自分がいるのだ。さらに、僕の頭に取りついて離れないひとつの考えが僕を苦しめていた。
はたして、ドーピングをやめさせる権利は僕にあるのだろうか?
たとえば、目の前に瀕死の病人がいたとして、助かる見こみもないとする。そんな時、その病人が死ぬ前の最後にフライドポテトをたらふく食べたいと願ったとしてそれを断れる人間がどれほどいるだろうか?
そんな死の病とドーピングとを比べるのはナンセンスだという人もいるだろう。しかし、僕は根底の問題は同じだと思うのだ。
世間で悪いとされていることでしか幸福を感じられない人がいる時、僕たちはその悪を罰するべきなのだろうか。
もちろん、ほかの人々に迷惑をかけているのなら、その悪は多くの場合認められないことが多い。だが、こと
ほかの選手が小汚い手を使っている中、
どうせ高校を卒業してもプロの陸上選手になることはないのだから、なおさらである。
それに、なによりも躊躇する理由は、僕が
入学して初めに声をかけたのは、僕からではなく
「
最初に顔を合せたときの第一声を今でも覚えている。いきなり僕に頭をさげてきた
「実は吾輩は陸上をやっておってな……。」
目を丸くした僕に
今年の徒競走で本気で一位を狙いたいこと、そしてそのためにきちんとバランスの取れた食事を口にしたいことを僕に語った
どうやら中学生まで料理はすべて両親に任せっきりだったらしい
それでも
そんな
誰も
どんなに危ない目にあっても、
「吾輩は、走るのが好きなのだ。」
とっぷりと暮れていく夕日の中、
「ただひたむきに、走って走って走り続ける。吾輩はこの高校の誰よりも走ることが好きな自信がある。だから、吾輩は一位をとりたい。」
その当時すでに体育祭が生徒たちの違法賭博の祭典であることを知っていた僕にとって、その
だからこそ、去年の体育祭。大半の下馬評を覆して二位の生徒とデッドヒートを演じた
もちろん
ゴールテープを切った後、自分が一位になったのが信じられないとばかりに後続の選手を見つめていた
僕は今でもあの日の
あれほどまでに徒競走を愛していた
僕はそれが心底恐ろしかった。
深い思索に沈んだまま、図書室を後にする。
悩み続けていた僕は、くしくもあの嵐の日に
その時、体操服姿の
普段の護衛もつけず、一人で例の空き教室にむかっている。気がついたころには、僕の足は
すぐ後ろをついてくる僕に気づく素振りもなく
空き教室に姿を消した
なにをしたいのかわからないまま、目の前の扉を見つめる。こんなところまで
「ったぁ……。」
うじうじとしたそんな僕の悩みも、空き教室から
「
空き教室に飛び込んだ僕が目にしたのは、腕に注射針をさそうとしている
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