第6話
鳴り響く雷鳴の中、カタカタと乾いた音をたてて実験器具が動く。僕の手からビニール袋をひったくったかと思うと、
「まあ、対価とらん言うたのは別の理由もあってやな。この学校の設備やとできることも限られとるから、実はあんまり自信ないんよ。」
手元のノートと睨めっこしながら
「今の時代やったらほんまに便利な機械がたくさんあるんやけど、たいていが高いもんやからこないな高校にあるはずもないんや。ダメやったらその時はごめんやで。」
しばらくの間慌ただしく歩き回る
次々と試料として消費された粉末は量を減らしていく。ビニール袋の中の粉末が残りわずかになるにつれて、
「これで、最後や。」
しばらく
「終わったで。」
気味の悪い色味のその試験管を試験管立てに静置した
ふうっとため息をついてしばらくの間ノートを眺めた
「これだけ制限がある中でようやったわ、流石にうちもここまでできるとは思わんかった。」
どことなく満足げな表情を浮かべた
「たぶんこいつはホルモンの一種やな。」
「ホルモン?」
ホルモンと聞いて浅学な僕は焼き肉の部位しか思い浮かべることができなかった。ちなみに個人的にはなかなか噛みきれなくて嫌いである。
「
呆れたような目つきで
「
僕の馬鹿さ加減にうんざりした
「んで、こいつはそのたくさんの種類があるホルモンのうちのどれかいうわけや。厳密にいうとホルモンそのもんやなくてそういったホルモンを体内で作らせる物質なんやけど。」
「で、ここからが本題やねんけど………。」
「いったいこの薬はなんのために使われたんやろな?」
別にこの粉末の正体が絶対にホルモンの一種と断言できるわけではない、と
「やけどな、ホルモンっちゅうのは別の目的にも使えたりするんや。」
「たとえばドーピング、とかな。」
僕はガンガンと理性が警鐘を鳴らしているのを感じた。考えたくないと心が思考を拒否する。
しかし、それは無視するにはあまりにも出来過ぎていた。
体育祭間近、徒競走に出場、廊下での突然の昏倒。
「もちろん、治療目的やない不適切なホルモン剤の使用は危険やなんてもんやない。そない無理したら体はもちろんボロボロなるやろし、下手したら寿命縮めるやろな。」
黙りこんでしまった僕に気がついたのか、
「まあ、うちの解析も完ぺきとはいかん。もちろん間違っとる可能性もある。」
「
「
お礼の言葉を口にしながら、僕は近づいてくる
「あら、
「これはこれは、
「えらく
なにやら二人が言い争っているのを無視して、僕は
「
「
「なんのことかしら?
「違う!」
自分でも驚くほどの声が出て、ようやく僕は自分の調子がくるっていることを理解した。驚いたように僕を見つめる二人の視線のおかげでゆっくりと頭が冷えてくる。
「……大声出してごめん。だけどもう誤魔化さないできちんと教えてほしい。
僕の言葉に、
「
「面倒やなんてひどいわぁ、うちはただ
僕は
「ええ、
「なら、どうして止めようと思わなかったんだ!」
僕は語気が荒くなっていくのを抑えられなかった。いくらなんでも目の前で友人が犯罪行為に手を染めているのを見過ごしていただなんて平穏な気持ちで入れるはずもない。
なかばやつあたりのような僕の言葉に、
「なら、わたしは
残念なことに、ここ
「そもそもドーピングをしているのは
確かに、ドーピングをしているのは
「せやで、
「あら、珍しく気があったわね。」
「うちらの意見が一致したんとちゃう、
あの夜のことを彷彿とさせるような持論を展開する
うつむいたまま僕はいったいなにをするのが正解なのかわからなくなった。
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