第2話
気分のすくような秋晴れの下、僕たちはグラウンドにいた。田舎の高校のくせに立地が悪いせいで猫の額ほどに狭い運動場に集められる。
徒競走やリレーに出場する選手たちはそれぞれバラバラにグラウンド中に散る。その周囲を支援者に雇われたのであろう護衛役が鋭い目つきで守っていた。
時折その一団の中から怒声が聞こえてくるのは、恐らく敵対選手の刺客が攻撃をしかけているからであろう。そんな修羅場を一歩ひいて眺めているのは僕たちだけでなく先生もそうだった。
「さて
二人三脚用の足を縛るひもを片手に、体操着姿の
実のところを言うと驚かれるかもしれないが、僕はあまり練習に乗り気ではない。去年二人三脚を
二人の足をひもで固く縛る。お互いの肩に手をまわして体を密着させながら、僕たちは立ち上がった。
「よし3、2、1………。」
去年もそうだったのだが、どうしても
「まだまだ、もっとしましょう。」
僕のすぐ真横で地面に横になっている
どうしてそうなってしまったのかはわからないのだが、去年のさんざんな結果以来、
体育祭でビリに終わった後も数週間練習につきあわされたほどだ。もちろんその練習も実を結ぶことはなかったのだが。
結局その後も数十分ぐらい二人三脚を練習したのだがすこしも上達することはなかった。
「どうしてうまくいかないのかしら。」
「まあ、地道に練習するしかないよ。」
唇を噛みながら、
「あ、
僕はそっと目を瞑る。どうしてよりにもよってこの最悪のタイミングで
どうやら、
もはや走っているのと同じぐらいの速さではないのかと見まがうほどの勢いで
「そういえばさっきまで
僕は
「こないな調子やったら、やっぱり
? 今更恥の上塗りせんでもええやん?」
僕の手はすでに悲鳴をあげていた。薄笑いを浮かべる
「ほな、そろそろうちらは練習再開するわ。相性悪いのに無理やり
僕にむかって手を振りながら
「
しばらくして顔をうつむかせた
「なにがなんでも、今回の体育祭では優勝を狙うわよ。」
次の瞬間飛び出した
「いや、それは無理だって、」
「
説得を試みようとするも、ニッコリと微笑む
「ええ、ええ、いいですとも。
今までこの地上に現れたどんな独裁者よりもどす黒い笑顔を浮かべながら、
「わたしと
意味不明な言葉ばかりを並べている
「あなた、これから放課後まで予定はないでしょう?」
僕は絶望の面持ちで首を縦に振るほかなかった。
永遠に続くかと思われた地獄の二人三脚練習が終わり、僕は疲労困憊で文字通り這いつくばるようにして更衣室を目指していた。あの昼の体育の授業から今の今まで僕たちはすべての授業をサボってただひたすらに二人三脚の練習を繰り返し続けていたのだ。
ほかの生徒のおかしなものを見るかのような視線は今でも思い起こせる。まあ、誰も本気でやっていない二人三脚をただひたすらに必死で練習している人間がいたら誰だって気になるのは当たり前か。
あちこち筋肉痛の体をひきずりながら校舎を歩く。土だらけの体操服を早く着替えたいものだ。
いまいち力の入らない足を前にノロノロと出しながら廊下を歩いていると、遠くのほうに誰かが横たわっていることに気がついた。
僕たちの来ているような体操服ではない、本格的な陸上用のユニフォームをまとった女子である。恐らくは敵対選手の手の者に襲われたのだろう。
体育祭関係のゴタゴタに巻きこまれたくはないのだが、見過ごすわけにもいかない。ため息をつきながら僕はその人影に駆け寄った。
「大丈夫ですか?」
周囲にほかの生徒の姿、特に刺客の姿がないことを確認してからその生徒の肩を揺さぶる。が、反応がない。特に怪我をしている様子もないので、もしかするとただ単に練習の疲労がたまって倒れてしまったのだろうか。
しかたがないので僕は図書室まで連れていくことにした。ここで放置していればまた誰かに襲われないとも限らない。
背負うためにその生徒の体を起こしたとき、初めて僕はその顔を目にした。見慣れたその人影の正体に目を見開く。
「
あの"郵便屋"であり僕の数少ない友人のひとりである
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