第31話
「どうして、こんなことを………。」
ポツリと口から漏れた僕の言葉に、
「どうしてって、そんなの決まっとるやん。
感情の抜け落ちた不気味な表情で、
「そもそも中学校の頃に人ひとり自殺寸前まで追いこんどきながら、ここでこないな支配者気どりしとるとか悪い冗談やわ。悪は悪らしく一生苦しんどけばええのに、なに悪事積み重ねとんねん。」
「その話じゃない、
僕は
「どうして、どうして
「
もはや口にするべき言葉すら見つけられない僕に
「人っちゅうのはや、生まれつきなにが正しくてなにがあかんかわかっとる、そううちは信じとる。人間は生まれながらに善なのやとな。」
いきなり意味の分からないことを
昔、中国の偉い人が唱えたという考え、性善説。人は生まれながらにものの善し悪しがわかるとそう語る
なにかがおかしい。
「そうや、人間は善なはずやねんから、悪事を働くはずないねん。せやったら、悪人はいったいなんなんやろか。」
再び快活な笑みを浮かべた
「簡単や、悪人は人やないんや。人間やないから、悪を犯すんや。そう、」
――――――――善は人の必要条件やから、悪は人ではないんよ。
めまいがする。
僕は
だが、
「
吐き気がする。僕はよろよろと背後の壁に手をついた。
なんだ、なんなんだ。こんな
まるで悪夢のようだった。
「
心配げな顔つきの
「そこまでにしてくれるかしら?
しゃらりと、銀の髪が宙を舞う。いつのまにか僕の前には
なぜか安心して胸を撫でおろすと、
「いやいや、
その瞳が、
「せやんなぁ、
視界が狭くなってくる。呼吸が続かない。
「いいえ、あなたはわたしのもの。そうでしょう、
気がつくと、
永遠にも思える一瞬の後、
「ほら、わたしのものでしょう?」
その怒りの炎が冷めやらぬうちに、
「
ばたりと音がして扉が閉じられる。暗闇の図書室には僕と
静かになった図書室で、無意識に唇をなぞってしまう。初めての感覚に僕の頭は破裂寸前だった。
「これで、一件落着といったところかしら?」
…………いや、よく見てみると
「なにか文句でも?」
視線に気がついたらしい
気恥ずかしい静寂が、二人の心を苛んでいく。
耐えきれなくなったかのように、背中をそらしたまま
「そういえば、まだお礼を言っていなかったわね。」
「なんのお礼?」
赤くなった耳は見なかったことにして、聞き返す。
「約束、守ってくれたでしょう?」
ああ、とはるか昔に結んだ約束を思い出した僕は冗談めかして返す。
「まあ、
「あら、それは頼もしいわね。ぜひともお願いしてよろしいかしら?」
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