第30話
結局、
人ひとりが命に係わる大けがをしたのにも関わらず、警察が捜査を始めないのは、近くの村の駐在員が例の商店の店長の父親だからだ。
今日もガヤガヤと教室は騒がしい。
喧嘩の最中殴られて吹き飛ばされた生徒が窓ガラスを突き破って中庭に飛び出していく。すでにほとんどの窓が破れてしまっていて、今年の冬が今からでも楽しみである。
教卓の前では相変わらず先生がチョークをグニャグニャと走らせながら意味のなさない独り言を呟いている。
「
「なにかしら、急に改まって。」
目の前で相変わらず専門書を読んでいる
「謝りたいことがあるんだ。一昨日は変な勘違いをしてごめん。いろいろと嫌な言葉を口にしちゃったから。」
「別にそんなことはどうでもいいわ。結局のところわたしもああなるのを黙認していたのだから責任がないといったら嘘になるもの。」
「それで、質問したいところがあるんだけれど………。」
いつものように教科書のわからないところを質問していく。背後で鳴り響く破壊音を聞き流しながら、ただ鉛筆を走らせる音が響いた。
もう10月も終わりにさしかかり、夏の終わりを感じる。世間一般でいう青春とはほど遠い世界に生きている僕たちを憐れむかのように、窓の外は気持ちの良い晴天だった。
「ああ、そういえば。」
「今日の放課後、あいているかしら?」
「え、うん。」
「ならよかった。ちょっとした用事につきあってほしいの。」
僕はいったいなんのことだろうかと首を傾げる。
相変わらず獅子王は"郵便屋"の仮面を被って
今日もこの高校は
「いったいなんの用事があるのさ。」
僕の問いかけに、
「あなたもわかるでしょう? まだひとつだけやらなければいけないことが残っているわ。」
ああ。僕は目を瞑った。
思い出したくなどなかった、あの日に
僕はどうしても理解ができなかった。どうしてもあの人があんな恐るべきことをするとは考えられなかったのだ。
気が進まない様子の僕に気がついたのか、
「今回の決着をつけなければいけないわ。」
僕たち"銀行屋"は、
夕日が図書室を紅に染める。
くしくも出会ったあの日と同じぐらいの時間に、その人は姿を現した。つややかにのばされた黒髪が、僕の視界の端をかすめる。
「どうしたんや、
いつものような陽気な関西弁が僕の耳をくすぐった。かつて化学室で見せた豹変をすこしも感じさせない、朗らかな笑顔でその人は僕に近づいてくる。
「あっ! もしかしてやけど、気が変わってこの前の話にのってくれるんか! それは嬉しいわぁ、ほなら今すぐにでも………。」
「あいにくと、今日はその話ではないの。
親しげな、それでいて底冷えのするような声が本棚の間から聞こえた。
「………なんや、
「あら、そう? だったら
笑っているけれど、笑っていない。
「せやな、
ニコニコと、
「そのさ。」
「うん、なんや?」
「
途端、
「
「あの日! あの日、僕が
そう、僕が
「だから、
それだけではない。僕はあの日化学室で
「あの日、
「僕たち
その人間のいうことは誰でも喜んで死に物狂いで従おうとするだろう。恐ろしいことに、絶対的な支配者である
「あのやなぁ、うちはさっきから
「
「
「そうそう、そういえばの話なのだけれど。」
今の今まで沈黙を守っていた
「一昨日
さて、
図書室を沈黙が覆う。夕暮れはとっくに終わっていて、真っ暗になった教室はどこか寒々しさを感じさせた。
「ほんま、最後まで使えんモノやったな、アレは。」
そこに、
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