第28話
幼い頃の
学生の頃はラグビー部であったという父に、小学生である
そのせいもあってか、小学校の間は物静かで陰気な学生だったように思う。すべてがひっくり返ったのは、中学生も高学年になった時の話であった。
とある日曜の朝、
価値もわかりはしないような高いウィスキーを飲んでご機嫌の父は、暴力に慣れて逃げようとしなくなった
キッチンからモクモクと黒煙が立ち昇る。その光景を見た
近くにあった灰皿を握ってがむしゃらに突っ走る。無我夢中でその鈍器を振り下ろし続けて、我に返った時には世界のなにもかもが変わっていた。
あれほど強大で絶望そのもののように感じられた父が、うずくまって怯えた目を
思えば当然のことだ。成長期真っ盛りの若い少年と、喫煙と飲酒で体を酷使している老い先短い中年の男性とではいつか力が逆転するのは自然なことである。今回はたまたまそれが
だが、その時の
暴力で人の上にたつ、快感。力で人間をねじ伏せる、快感。
くしくも
今まで抑圧されてきた鬱屈とした感情が、嵐のように吹き荒れる。
それからの
暴力、犯罪、非行、なんでもござれ。我慢するということを知らない
ゲームを買いたいのに持っているお金が足りない? ならば万引きすればよい。店員にとがめられた? ならば文句を口にしなくなるまで蹴りつければよい。両親が説教をしてきた? ならばまた体に言い聞かせるまでだ。
が、暴力に酔いしれる
傍若無人に振る舞う
こと法律業務に関しては天才的であった父は、その弱点を仕事柄よく理解していた。父は自らの家庭内暴力の事実を巧みに利用して、自らの息子の親権を息のかかった後見人に譲らさせたのである。
養子縁組まで勝手に行った父は、もう法律上の義務はないといわんばかりに
法律を学んで弁護士になりたい。
それが、この国で絶対の権力を手にしたいという最低最悪の動機から出たものであったとしても、
が、そんな夢も
だからこそ、
だからこそ、あの日、あいつが話しかけてきたその時に
あいつには
まさに、天からの思し召しだと思った。
それから
勝利を確信した、はずだった。輝かしい将来が開けた、はずだった。
それが、どうしてこうなった。
血だらけの床に横たわって、
朝日が昇って廊下を明るく照らし出す。あれほど"転売屋"として権勢を誇った
これから、自分はどんな目にあうのだろうか。
これまで"転売屋"のボスとして
一度でも権威が失墜した者に、この高校は容赦がない。
しかも、今や
次第に青ざめていく
普通の街ならばどこにでも売られているだろう一般的な茶封筒に、しかし
この類の封筒は、
あいつだ。あいつが
まるで何日も餌にありついていなかった野良犬のように、
その中に入っていた手紙には、まるっこい丁寧な文字で待ち合わせの日時と場所が記されていて、最後に希望を捨てないようにと励ましの言葉が綴られている。
あいつが指定したのは、寂れた校舎の裏側だった。ごうごうとすぐ後ろを流れる川が轟音をたてている。
今度こそは絶対に失敗しない。なにがあろうともあいつの依頼を完遂してみせる。
最後に残された希望なのだ。こんな
ドンッ。
押されたのだ、背中に伝わるぬるい感触にそう確信する頃にはもう手遅れだった。自分はこれから下で流れている急流の川に落ちるだろう、そして今のボロボロの体では十中八九生きることはできないだろう。
希望から絶望へと一直線に落下していく
「そうか、そもそもお前の言葉に乗せられた時点でもう俺は………。」
最後まで言い切られなかった呟きが、天に向かって消えていった。
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