第21話
「どうや、悪い話やないやろ? 簡単な話、
ニコニコと、言外に圧をこめながら
「その、正しい場所って……。」
「そりゃちゃんと学習指導要領が守られとる高校のことや。
行きたくない、と言えばうそになる。
だが、かといって
「いや、そんなこと言われてもにわかには信じがたいよ。」
「うちのこと、疑っとるん? 大丈夫やで、約束はきちんと守るわ。いろいろと高校から問題児預かっとるうちのパパは意外と顔が利くんや。」
「でも、
「
「あ、あと
ダァン!
先ほどまでの異様な雰囲気といい、
顔から感情の消えた
その急な変貌ぶりにビクビクして縮こまっていると、
「………そもそもや、なんで
どうして、僕が
中学校の頃は文字通りお互いにお互いを騙しあっていたし、教育委員会が介入してきていじめのことが白日にさらされてからも二人の間の溝が埋まることはなかったように思う。そもそも僕たちは告発からこのかた顔をあわせることはなかった。
次に僕たちがばったりと出くわしたのは、こともあろうに
「思えば、
「はぁ?」
思いもかけなかったであろう言葉に
「
数奇院は倫理観を理解していながら、それを重視することはなかったのだという。今まで
その本心を聞いた後、僕は
だから、僕はそれから
そう訳を話し終えた時、僕はようやく
「……まあ、僕の印象だから間違ってるかもしれないけれどね。」
どこかうすら寒さを覚えた僕が言葉を濁すと、油がさされていない絡繰り細工のように
「そうやで、そんなこと冗談でも言わんといてや。そんなことあり得へん、アレとうちが同じなんて、酷い話やわ……。」
壊れかけのスピーカーフォンのように
「それで、
否とは言わせないとばかりに、鋭い眼光が僕を突き刺す。その真っ赤な瞳にはどこか残虐さが見え隠れしていた。
やっぱり今日の
確かにこの
しかたがない、僕は腹をくくることにした。へんに誤魔化しては駄目だ、キチンと伝えないと。
「ごめんだけれど、やっぱり僕はこの高校に残ることにするよ。」
「……それは、
ようやく、
「ふぅん、そうか。引き留めて悪かったわ、これで話はしまいや。」
ガタリと、星の光で薄明るい化学室の扉に手をかける。
「なあ、
いっそ驚くほどに静かな声で、
びゅうびゅうと吹く風が、遠くの山から雲を運んでくる。月も星も遮られて光が届かなくなった教室は、もう真っ暗闇に近づいていた。
「でも、
「…はい?」
にこにこと、相変わらずどこか気味の悪い笑顔の
「いや、ええんや。
「いや、何を言って」
「ええで、大丈夫や。
「だからどういう意味か分からないって」
「安心し、
会話が嚙みあわない。誑かすとか洗脳とか、
暗黒が化学室を襲う。一切の光が届かない教室の奥で、聖母のごとき笑みを浮かべた
「待っといてくれや、きっとうちが
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