第12話
そんな、馬鹿な。これまで
「
背後から
すぐに手紙を封筒の中に押しこみ、ズボンのポケットに隠す。そんな僕の様子を不審げにみつめていた
煮沸し終わった小川の水を
手紙を盗み見たことはどうやらまだ気づかれていないようだ。僕はいっさいの動揺を表に出さないよう注意しながら、できるだけ普段通りに振舞おうとした。
熱い熱湯を飲み干す。息を吹きかけて冷ましてから隣で同じようにお湯を飲んでいる
いや、あれだけ同じ時間を過ごしてきた
隣りに座る
そう喉まで出かかった言葉を無理やり飲みこんで、僕はすぐさまこの場を離れることにした。どちらにしろ、
いつもは煩わしく感じていた、
僕はあくまで自然を装って立ち上がり、
「それじゃ、僕はもう高校に戻るよ。昨晩は泊めてくれてありがとうね。」
かすかに頷く
「はぁっ、はぁっ……。」
息を切らしながら慣れない山道を走っていく。一刻も早く
鎖がのばされた岩場で、僕はようやく立ち止まった。いくらなんでもここは慎重に降りていかなければ、大怪我をしてしまう。
膝に手をあて、荒れた息を整えていた時だった。ふと、自分がなにかを忘れている気がして嫌な怖気が背筋を伝っていく。
いや、僕はこの山に封筒のほかは着の身着のままで何も持たずに来たはずだ。確かに不用心なことだけれど忘れ物なんてするはずが、
「あっ、封筒!」
そういえば、僕はまだ封筒を制服のズボンのポケットにつっこんだままだった。恐る恐るポケットをまさぐると、指先に紙の固い感触が伝わってくる。
馬鹿か、僕は! どうしてあの隠れ家に残してこなかったんだ、これじゃあ
自分のあまりにもの不注意に、臍を噛む。しかし、こうなってしまっては後の祭りであることに変わりはない、今はとにかく高校まで少しでも早く戻らなければいけなかった。
岩場の鎖に手をのばす。かがみこんだ僕の肩に、そっと誰かの手が添えられた。
「……
どうやら、急ぐとか急がないとかの前にとうの昔に僕は詰んでいたらしい。
「封筒、もらう。」
僕の手から封筒が背後に抜き取られていく。僕は、これから自分が
「読んだ、中身?」
今さら誤魔化そうとしたって無駄だ。
「アブリル、どうして"銀行屋"を裏切ってよりにもよって
もう取り繕う必要もなくなった僕は、
「金。」
「は?」
「金、いっぱい、くれる。
一周回って実にこの
ただ、僕は悲しみとも怒りともつかない感情で心がぐちゃぐちゃになっていた。今までの"銀行屋"の思い出も、結局は金次第というわけだ。
「
裏切りを認めたも同然の言葉。それを紡いだのと同じ口で
「
「……まさか、アブリルは僕にも
「ちなみに、そのお誘いを断ったら僕はどうなるのかな。」
「安全、保証、ない。裏切り、知られる、あってはならない。行方不明者、隠滅。」
乾いた笑いを漏らす。どうやらこれは提案でも勧誘でもなく、単なる脅しであったらしい。
確かに、今ここで僕が
黙りこくった僕をみつめる
「
僕は
「アブリル、ごめんだけれど
「ただでやられるつもりはないぞ!」
最後の抵抗を試みて、僕は
ガッ!
頭に衝撃が走った。目の前で星が散り、僕は地面の上に倒れこむ。
朦朧とする意識の中、僕は
ズリズリと
どうやら
僅かばかりに残った力で
全身が浮遊感に襲われる。青い空がよく見えた。
岩場から蹴り落された僕は風を切りながら一目散に地面に向かっていく。僕の寿命もあと数秒で終わるのだろう。
そう諦めた僕が目を閉じて最期の時を覚悟した瞬間、ふわりとして柔らかいなにかが僕を優しく包みこんだ。
覚悟していた痛みがまったく伝わってこない。いったい僕はどうなってしまったのだろうか? 不思議に思いながら僕は瞳をつむったまま背中の肌が鋭い岩に切り裂かれるのを待ち続けた。
「
「……なぜ、お前、ここに!? 」
いるはずのない、聞こえるはずのない声が聞こえてくる。驚きのあまり上擦った
「ちょうど15時間47分ぶりね、
得体のしれない冷酷な笑みを浮かべた、あの
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