第11話
「アブリルか。この首のナイフをどけてほしいんだけど。」
突然襲ってきたのが
が、
「あ、アブリル? 僕だってば。」
「
胡乱げな眼差しの
「……で、こんな風に僕は遭難して今に至るんだ。これで分かってくれたかな?」
「説明、証拠、ない。嘘、いくらでも、作れる。」
そんなものあるはずがない、具体的な物的証拠を要求された僕は心の中で悲鳴をあげる。僕の必死な弁護もむなしく、
「証拠、ない? それなら……。」
僕が狼狽えているのを見て取った
それを一目見た
「それ、封筒。誰から?」
「
「そう。」
いきなりスンと落ち着いた
「事情、おおよそ、把握。どうするか?」
どうやら僕への疑いは完全に晴れたらしい。そうなると、ひとまずの危険を脱した僕はこれからのことを考えなければならなかった。
話を聞くに、
どうやら僕と
さて、僕はいったいどうすればよいのだろう。幸いにも
……でも、夜の山を一人で降りるのはやっぱり嫌なんだよな。
「
僕がいろいろと悩んでいると、
「でも、迷惑じゃないかな。それに、僕のことをそれだけ信頼してもいいの?」
「いい。もし、
言外に僕を倒すことなどお茶の子さいさいだと宣言されたのだが、喜ぶべきだろうか、それとも悔しがるべきだろうか。いずれにしろ、疲れ切ってとにかく早く休みたかった僕は
「どうもありがとう。それじゃ、お願いするね。」
「ん、手、握る。」
目の前に健康的な小麦色の手が差し出される。どうやら夜の山道を一人で歩かせられないと
山道から外れて、僕を先導する
「ん、ここ、ついた。」
しばらくして前を歩いていた
ようやく暗闇に目が慣れてきた僕は、そこが見慣れた
迷彩色のテントが目立たないように木々の間に張られている。石で囲われた地面には焚火をした痕跡が残されていた。
ほんとうは森の中で焚火をするといろいろな法律にひっかかるのだが、
「ん。……あげる、食べる、大切。」
そのまま、二人の間の会話は止む。
チロチロと揺らめく炎を見ているふりをして、
幼い顔立ちだ。火に照らされて褐色がかった肌は美しく輝いている。くりくりと大きな黒い瞳には、年相応のキラキラとした光が見え隠れしていた。
その整って端正な横顔にはところどころ傷が走っている。
「……夜、遅い。眠る、必要。」
「あれ、アブリルはどこで寝るんだ?」
僕の疑問に
暗黒の森の中に消えていく
焚火の火の始末をしたのち、テントの中に潜りこむ。ともすれば乱雑に汚れていそうなテントの中は清潔に保たれていて、それどころかいい匂いがする有様だった。
汚れた制服で寝袋を汚してしまうかもしれないと躊躇したが、それでも背に腹は代えられない。全身を暖かな陽気に包まれた僕は、たまりにたまった疲労もあいまってすぐに眠りについてしまった。
ピチピチピチ……。
小鳥のさえずる声がして、僕はゆっくりと瞳を開ける。すでに高く昇っているのであろう朝日でテントの中は明るかった。
テントから這い出すと、すっかり疲れのとれた体でのびをする。一足先に起きていたらしい
「
倒木の幹に腰かける
偶然垣間見た
例の封筒だ。封をきられて中の手紙がはみ出たまま、地面の上に落ちている。
珍しい、あの
僕は特段怪しむこともなく、ただ単なる善意でその封筒を拾った。それが、とんでもない秘密を隠していたとは思いもよらなかったのだ。
最初に違和感を覚えたのは、はみ出た手紙の最後に記された差出人の名前だった。
「これは、まさか
恐ろしい怖気が僕を襲う。いったいこの手紙はなんのために送られたものなのだろう。
他人宛ての手紙を本人の断りもなしに勝手に読むのは決してしてはならないことだ。もし
それでも手紙を封筒から取り出す手を止めることはできそうにもなかった。
ところどころ汚れや染みがついた紙に殴り書かれた乱暴な文字。僕たち"銀行屋"、つまり
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