第8話
ヒュゴッ!
僕の耳もとを物騒な風切り音をたてながらピンポン玉が通り抜けていく。そのオレンジ色の軌跡は背後のネットに衝突してからもしばらく回転していた。
僕の眼前に立つのは
「10点目。」
ちなみに僕は未だ
体育館の二階、縁から木肌が覗いている卓球台で
「次、
そんな
卓球場の隅で
相変わらず
「
「なにかしら。」
「
「そもそも
「え? ただ僕たちが気に食わなかったからじゃないの?」
「気に食わないからといってすぐに殴りかかるような人じゃないわ、
数奇院が語るには、清流寺は"銀行屋"を憎みながらも自身の地位の維持のためには"銀行屋"が必要不可欠であることも嫌というほど理解しているらしい。そうでなければあれほど利率に不満を抱いていながらも融資を受け続けたことに説明がつかないと。
「
食料の独占のためには
「下手にわたしたちに襲撃を仕掛けでもして、
ひとたび不信感が広まってしまえばお終いだ。恐怖にかられて生徒たちが預金を引き出し、銀行の資金が尽きてしまうと
だから、"銀行屋"という特権の奪取は速やかに、そして秘密裏に行われる必要があった。
「
確かに、数奇院が言う通り
「
僕はなんだか恥ずかしくなってきた。もしかすると
「どうやらわたしの出番が来たようね、失礼するわ。」
おんぼろラケットを握った
「あ、
息も絶え絶えな
やがて水筒から口を離した
「あの
「まあ、アブリルはほんとうに運動神経がいいし力も強いから。」
昔なんか
考えてみると、
「でもまあ、僕たちの中で一番強いのはアブリルじゃないんだけどね。」
コーン。
気の抜けたような音と共に、ピンポン球が地に着く。今までと違うのは、地面に倒れこんでいるのが
「まだ、1点だけ。」
まるで自らを奮い立たせるように
「なんやあの軌道は……。」
あんぐりと口を開けている
目の前では、先程と変わらず一方的な試合運びが続いている。ただし、走り回らされているのは
「っ!」
「
……僕は常々
その後も、やはりというか
「
「
魔王様からのご指名に僕は重い腰をあげる。横からは
卓球台の前に立ち、
「そういえば、あなたがこの前入手を試みたあの低俗な漫画なのだけれど。」
動揺で震えた手に握られるラケットは見事に空振り、ピンポン球が卓球台の上で何度も跳ねる。青い顔色の僕を愛おしげに見つめる
視界の端で
「いったいどういう話だったのかしら? ……ああ、勘違いしないで。目に入れるのも汚らわしかったからすぐに捨ててしまったわ。だから中身を知らないの。」
でも、今思えばあなたの性愛的嗜好を知れたのに、惜しいことをしたものね。
すました表情でそういってのける
必死に
「それで、はたしてわたしの
ピンポン球の応酬を続けながら、
「仲のいい同級生とそういうことする漫画だよ! もう許してくれ!」
途端、
「……1点目。」
地面に球が接触したので、僕の得点で
あり得ない、あの
未だ俯いたままの
次の瞬間、僕の頭のすぐ横をすさまじい速度のピンポン球が通り過ぎていった。いつもの余裕たっぷりな笑顔を取り戻した
「あなた、覚悟したほうがいいわよ? わたしどうしてか今日は本気出したくなっちゃったの。」
その頬は未だどこか赤みがかっていた。
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