アルとパティ 交差する思い③

 パティがアルの突然の告白に驚いて何も言えずにいると、目の前のアルはさっきよりも寂しそうに見えて、パティは好きだと言われたのに、そうとは思えず、胸が痛んだ。


 ざあっと、湖を渡る風が二人の間を通り抜けた。


「アル、あの、それは本当に……」 

 気まずい沈黙を破ろうと、パティはアルに一歩近づく。

 

「パティ、僕は、心から君が好きだけど、僕の思いを、パティは受け入れなくてもいいよ。ただ僕は、伝えたかったんだ」

 

 パティがアルに近付こうとするのを阻むようにアルは言い、また、そっと微笑む。

 パティはアルの言動の意図が分からず、戸惑いと不安に押し潰されそうだったが、アルが酷く儚く見えて、黙っていられなかった。


「アル、どうしてそんなことをいうのですか?」

 

 戸惑いながらも、純粋な、澄んだ瞳を向けてくるパティに、アルはやはり、パティは強い人なのだと実感をする。


「その訳を説明するよ」

 アルはパティから視線を逸らし、背を向けた。

 

「僕はね、過去に、誤って友人を殺してしまったことがあるんだ」

 

 アルは一息に言った。

 パティに背を向けたのは、彼女の澄んだ瞳が、自分を見る目が変わってしまうのではないかと怖かったからだ。


 パティは、何も言わない。……いや、言えずにいた。

 

「君に、自分の過ちを何も言わずに、思いだけを伝えるのは、違うと思ったんだ。だから、伝えた」


 アルは更に続ける。

 その時アルは勇気を振り絞り、自分からパティに近付いた。


「……パティ、驚かせてしまったね。でも、前から言おうと思っていたんだ。僕は、パティ、君が好きだ。パティのことを、ずっと、護っていきたい。ずっと、僕の近くにいて欲しい。でも、僕が過去に犯した過ちを知って、パティがどう思うかは、怖いけれど、伝えなければいけないと思っていた」



 ――パティがそれで僕を受け入れられないなら、僕は、パティを、潔く諦めよう。


 

  アルはそう覚悟をして、全てをさらけ出したのだ。



 ……本当は、パティが僕を好きになってくれるまで待っていたい。でもそんなのは、僕の身勝手だ。だから、パティの思いを尊重しよう。

 例え思いが届かなくても、ずっと、パティを愛していることに変わりはないけれど――。



 自分がパティに思われていると、アルは全く感じていなかった。

 それだけではなく、こんな重いくさびのような過去を背負っている自分を、普通は受け入れられる筈はない、と思った。

 だからアルは、内心ではパティに振られるだろうと思い、ほとんど諦めたような告白になってしまったのだ。


「アル、どうして、そんな風にいうのですか?」


 パティは珍しく眉を寄せ、怒ったように言った。


「まるでわたしがアルを受け入れられないって決めつけるみたいに、言うのですか?」

「……え? だって、パティ、そうじゃないのか? こんなこと、普通は、受け入れられないだろう?」

 アルはパティの受け答えが意外で、彼女がそう言った意味までは考えていなかった。

 

「アルはわたしを全部分かっているみたいに言いますけど、それは、違います」


 パティは明らかに怒っていた。

 

「パティ、もし、僕に同情しているなら、そんな必要はない。僕は、パティに思われていないのは分かっているから、君に振られることはもう予想がついているし――」


 アルは先走って、つい、余計なことを言っていることに気付いていなかった。


 アルはアルで、パティの重荷にならないように言ったつもりだったのだが、パティにしてみれば、自分の思いを無下むげにされたような気持ちになってしまった。

 

「だから、どうしてアルは、そうやって勝手に決めつけるのですか?!」

 パティは興奮して、いつしか大きな声を出していた。


「パティ、怒っているのか?」

 今度驚くのはアルの番だった。

 アルはパティが怒っているとやっと気づき、パティをじっと見ると、ブルートパーズ色のパティの瞳には、いつの間にか涙が浮かんでいた。

 

「パティ? 泣いているの? どうして……?」


 アルは驚きながらも、逃げ出そうとするパティの手首を掴んで、顔を近づけ、心配そうにパティを覗き込む。

 どこまでも自分の気持ちに気付かないアルに、パティは初めて、彼に対し、心底もやもやとした感情に支配された。







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