VS鎧武者Ⅰ


 ずっと、ずっと探していた。

 本当はもう“無い”ことなんて分かってはいたけれど、それでも探すのは、周囲への認識と己の精神のため。

 けれどもし、目の前に捜してるそれ・・が現れたのなら――……


   ☆★☆   


「“私たちの領域・・・・・・”で好き勝手、暴れるのは止めてくれない?」


 少女は告げる。

 目の前の――今となってはもう『あやかし』や『化物』と称されてもおかしくない存在に。


「それはそうと、私にも探し物はあってさ」


 彼女の目が鎧武者を捉える。


「貴方が知ってるのなら、情報は欲しいし、もし貴方の中にあるのなら、どうにかしたいんだよね」

『……』

「でもまあ、そんなわけ無いわよね。だって、彼らの成れの果てがそんなの・・・・なんて、認めたくはないもの」


 少女はくすくすと笑い、小さく笑みを浮かべる。

 自分の記憶の中にある『彼』は、もう少し格好良かったのだし、『彼ら』もまたこんな騒動を引き起こすことを望まないはずだ。


「それにしても、せっかく手伝いの申し出してくれた人に対して、抜刀で答えるのは酷すぎるんじゃない?」


 少女――桐嶋きりしま千沙子ちさこは鎧武者の攻撃を避けつつも、時折手にした刀で受け止めたりしている。


『……』

「まあ、そうよね。常人が見つけられるものなら、長いこと捜しているであろう貴方が、とっくに見つけてるはずだもの」


 意外と捜している『もの』と無関係な方が見つかる場合もあるが、奴の場合はそれすらも避けたいのだろう。


 ――つまり、先に見つけられた場合、『取られる』もしくは『“契約術式”が発動する』ことを懸念している。


 前者であれば、話し合いでどうにでもなりそうだが、後者の場合、捜し物により見つけた人物を契約主と判断されたら、どうすることも出来ない。


「まあ、貴方が捜してるものについては、大体予想できるけど……」


 彼は手伝うと言っただけで刃を向けられる理由はないし、先程の懸念事項が事実なのだとしても、断ればいいだけのこと。

 それなのに、刃を向けてきた。


「捜し物。大方どこにあるのか、見当がついてるんじゃない?」

『……』


 鎧武者の纏っていた雰囲気が変わったことにより、「桐嶋!」と少年は叫ぶ。


「いいよ、来なよ」

「なっ……!?」


 まるで対処できると言いたげに刀を構える千沙子に少年は驚きをあらわにするが、彼女が特に焦った様子はない。


「まあ、もし仮に捜し物が見つかったとしても、この辺で好き勝手されても困るので――もう一度、言うよ。“私たちの領域・・・・・・”で好き勝手、暴れるのは止めてくれない?」


 千沙子は、鎧武者に目を向ける。

 普段の彼女からは予想できない、何を考えているのかが読めないような、考えを見透かすような――まるで、人形のような目である。


「一時的にでも、この場から退いてくれないのであれば、私は私の仕事・・をしないといけないから」


 千沙子の刀からも気のようなものが溢れ出す。


「もし責めるのなら、退かなかった自分を責めなよ。『鎧武者』」


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