遭遇Ⅱ


 この世には、不思議なことやものがたくさんある――


 それぐらいのことは理解しているし、オカルトだとか別に信じていないわけではない。

 ただ、目にえないもの等がその辺にあると言われてしまうと、やはり少しばかり恐怖心が出てしまう。

 故に、そういうものを取り扱っているであろう『オカルト研究会』にも部室の間借りを口実に、文句を言いに行ってしまうのかもしれない。


   ☆★☆   


 ぜーはー、と息切れしながら、ただ目の前にある道を行く。

 何で自分がこんな目に……そんなことを思いつつ、足だけは必死に動かす。

 そもそも、アレ・・は――『鎧武者』は、人を襲わないのではなかったのか。

 だからこそ、「どこだ、どこだ……」と何かを探しているようだから、手伝いついでに噂を断てればいいと思っていたのだが、どうやら物事はそう簡単にはいかないらしい。


「――ッツ!?」


 振り下ろされた刀を転がりながらも回避する。

 何かしゃくにでも触ったのかは分からない。


「そもそも、何を探しているのか教えてもらえないから、手伝いすら出来ないんだろうが!!」


 まさに正論と言えば正論だが、それが通じているのなら、ここまで噂にはなっていない。


 時刻はもう夜と言ってもいい時間であり、人もまばら。

 故に、誰かに助けを求めようとしても、不可能に近かった。


 ――まあ、仮に人がいたとしても、見えるかどうか。助けてくれるかどうかは、不明なわけだが。


 命の危機だというのに、自分の中の冷静な部分が、そう判断する。

 けれど、『助けてほしい』という気持ちは、間違いなくそこにあった。


「ああ……もう。抜刀してるとか、一体何したの。君は」


 そんな場合ではないというのに、どこか聞き慣れた声に、思わずそちらに目を向けてしまう。


桐嶋きりしま……?」

「ほら、避けないと死ぬよ。副会長様」


 フランス人形を手にして、こちらを見ていた少女――桐嶋千沙子ちさこの言葉に、慌てて彼は鎧武者の刃を回避する。


「つか、危ないのはお前も一緒だろ!」


 副会長と呼ばれた少年は自分が回避することで、鎧武者の刃が彼女の方へと向かないようにしているが、もう少し離れないと危ない気がして仕方がない。


「君は、こちらのことは気にせず、自分の身だけを気にしてればいいよ」


 何てことのないように告げた後、千沙子は自身が持つ人形へと声を掛ける。


「マリア」

『はいはい』


 その声は少女にしか聞こえなかったが、確かに人形は返事をした。


「ねぇ、副会長様。さすがにこのままだと夢見が悪くなりそうだし、助けてあげる」

「は? 何を言って……」

「選ぶ暇なんて無いと思うけど」


 どうする? なんて問われたら、「助けてほしい」と言いたいところだが、人形以外何も持っていない彼女に何が出来ると言えるだろうか。


「……お前に、この状況が打開できるって言うのか」

「打開かどうか、そこまでいくのかどうかは分からないけど、どうにかすることは出来るよ」


 これに関しては嘘ではない。

 ただ、それが『打開』といえるのかどうか、怪しいだけで。


「……分かった。信じる」


 迷った末に、少年は決断した。

 少なくとも、ここから生きて帰るためには、そうした方がいいと判断したからである。


「それじゃ、はい」

「ん?」


 鎧武者などいないとばかりに素通りして、少年へと近づいた千沙子は、持っていたフランス人形を差し出す。


「ちょっと持っててくれない? 本当は誰にも預けたくないんだけど、今は君しかいないみたいだし」


 最後に「もし、落としたら……許さないから」と、普段の彼女から想像できないような雰囲気で言われてしまっては、少年としては、頷かざるを得ない。


「さて……私の探してるモノ・・が貴方で合っているのか、貴方自身なのかは分からないけど……」


 千沙子は告げる。


「“私たちの領域・・・・・・”で好き勝手、暴れるのは止めてくれない?」


 そして、どこに隠し持っていたのか、不釣り合いにも見える刀が彼女の手にはあった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る