遭遇Ⅰ


「いい? 鎧武者を見る分には構わないけど、話しかけないようにね」


 本日も本日とて、特にこれといった活動をすることなく帰り支度をしていれば、先輩にそう言われた。


「話し掛けるようなことなんて、そんなに無いと思いますけど……」


 そもそも、何なのかよく分からないものに自ら近付こうだなんて、よっぽどのお人好しでもない限り、ないのではなかろうか。


「その点については否定しないけど、まあ、一応ね」

「……」


 先輩がそう言ってきたということは、きっとあの鎧武者もそういう類いのモノ・・・・・・・・・なんだろう。

 じゃなれば、先輩がああいうモノ・・・・・・に関して、何か言ってこないはずがないのだから。


「先輩。もしヤバそうなら、先輩も逃げてくださいよ」

「心配してくれてありがとうね」


 先輩は肯定も否定もしなかった。

 たとえ「分かってる」と言われたとしても、言葉だけでは僕も信じず、疑っただろうし、確定の言葉を口にしなかったのは、先輩も先輩で完全にそうだと言い切れないからだろう。


「まあ、どうにも出来そうになかったら呼びなよ」


 そういう類いのモノ・・・・・・・・・に対して、先輩は対処するすべを持ってるから、大丈夫なことは分かっているけれど――


「はい」


 たとえどんなに先輩の手を煩わせたくないと思っても、僕には対処する手立てすら無いから、たとえ遭遇し、襲われたとしても、どうすることもできない。

 出来ることと言えば、先輩の無事を祈るのみだ。


 ――故に。


 何かを探しているらしい鎧武者を見かけても、あくまでも見るだけで話しかけるなんてことをしようとは思わなかったのである。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る