第34話IF 今の俺が俺そのものではない、いろんな俺自身があり得たんだ
17歳の誕生日に雪姉からプレゼントとして青いチェック柄のお洒落なマフラーを貰った俺はかなり喜んでいた。
「マフラーは普通に欲しいと思ってたから嬉しい。雪姉ありがとう」
「喜んでくれて何よりだ、大切に使ってくれ。ちなみにプレゼントしたマフラーは私が使ってるものの色違いなんだよ……まあ、いわゆるペアルックという奴だな」
ペアルックという言葉を聞いて雪姉と色違いのマフラーをつけて街中を歩いている姿を想像した俺は顔を赤く染める。
「おっ、顔を赤くしたな。これでちょっとは私の事を意識してくれたか?」
「だ、暖房の効きすぎで部屋の中が暑いから顔が赤くなっただけだよ」
雪姉から揶揄われて恥ずかしくなった俺は、早口になりながらそう言い訳をした。だが雪姉には言い訳だとバレバレだったらしい。
「そうか、ならばそういう事にしておいてやろう」
「……もう好きにしてくれ」
何を言っても無駄な事を悟った俺は投げやりになりながらそう答えた。それからしばらく雪姉と仲良く雑談をしているとインターホンが鳴り響く。
「誰か来たみたいだな」
「多分エレンとアランだと思う。ちょっと行ってくる」
誕生日プレゼントを持って俺の家に来ると事前に聞いていたため、多分エレンとアランだろう。俺は玄関に設置されていたインターホンのモニターを見る。
するとモニターにはエレンとアランでは無く、ギャル風の女子と白髪赤眼の女子という見覚えのある2人組が映っていた。俺はインターホンで通話を開始して2人に話しかける。
「水瀬さんとヒカルじゃん。急に来てどうしたんだ?」
「あっ、剣城君。誕生日おめでとう」
「うちとヒカルでセンセーにプレゼントを準備したから持ってきたんだよ」
どうやら2人も俺に誕生日プレゼントを持って来てくれたらしい。せっかく来てくれた2人をそのまま帰すわけにもいかなかったので俺は部屋にあげる事にする。
「快斗おかえり……ところで後ろの2人は誰だ?」
部屋に戻ると水瀬さんとヒカルの姿を見た雪姉が怪訝そうな顔になった。まあ、エレンとアランがやってくると思っていたにも関わらず全く知らない相手がやってきたのだからそういう反応になるのは当然だろう。
「2人はクラスメイトの水瀬さんと飛龍さん」
「あ、あの。初めまして、飛龍ヒカルです」
「うちは水瀬有紀っす、ところでおねーさんはセンセーとどういう関係なの?」
俺が紹介すると2人はそれぞれ軽く自己紹介をしたわけだが、水瀬さんがそんな事を雪姉に尋ねた。すると雪姉はまるで悪戯を思いついた子供のような表情を浮かべる。
「ああ、私は快斗の彼女の剣城雪奈だ」
「「「えっ!?」」」
その言葉を聞いてその場にいた雪姉以外の全員が驚いた。普通に自己紹介するのかと思いきや、雪姉はとんでもない大嘘をついたのだ。2人が真に受けてしまえば面倒な事になると思った俺はすぐさま否定する。
「いやいや、雪姉はただの従姉妹だよ」
「えっ、そうなの?」
「マジでびっくりした」
俺の言葉を聞いた2人はあからさまに安心したような顔になった。すると雪姉は不満そうな顔になって口を開く。
「……おい快斗、すぐネタバレするなんてつまらないぞ」
「2人が思いっきり誤解してそうだったから仕方ないだろ」
そんな会話をしているとまたインターホンが鳴る。玄関のモニターを確認しに行くと、そこにはエレンとアランの姿があった。俺はすぐさま扉を開けて2人を出迎える。
「エレンとアラン、おはよう」
「快斗君、おはよう。そして誕生日おめでとう」
「俺と姉さんで快斗が喜びそうなプレゼントを選んで持ってきたよ」
「ありがとう。それは楽しみだ」
そんな事を話しながら俺は2人を部屋に案内すると、エレンとアランは驚いた表情となり口を開く。
「えっ、快斗君の部屋にめちゃくちゃ人がいるんだけど!?」
「水瀬さんと飛龍さん、それに雪奈さんも来てるみたいだな」
すると2人の様子に気付いた水瀬さんとヒカルは次々に声をあげる。
「あっ、如月姉弟じゃん。2人もセンセーの誕プレ持ってきたん?」
「エレンさん、アラン君、おはよう」
「おはよう。実は私達もそうなんだよね」
「快斗の家に来てるのは俺達と雪奈さんだけだと思ってたから驚いたよ」
エレンとアラン、水瀬さん、ヒカルの4人は穏やかな雰囲気でそんな事を話していた。するとそんな様子を見ていた雪姉が小声でぼそっと何かをつぶやく。
「……相変わらず快斗はモテモテだな。でも絶対私は負けるつもりなんてないからな」
「ん、今雪姉なんか言った?」
「いや、ただの独り言だから気にしないでくれ。ところでみんなは何をプレゼントとして持ってきたんだ?」
雪姉はそう言い終わると4人の会話の中に入っていった。みんなから祝福されて幸せいっぱいの俺だったが、何故かさっきから違和感が収まらない。
「あれ、そう言えばなんで雪姉が俺の部屋にいるんだろう? 手を思いっきり振り払って拒絶してから来なくなったはずなのに。それになんで俺は大嫌いなアランと普通に接してるんだ?」
目の前の微笑ましい光景はよくよく考えたら何もかもがおかしかった。そして俺はとある可能性に気づいて顔を思いっきりつねる。
「……そうか、そういう事か」
顔をつねっても全く痛みを感じなかった。つまり俺は今夢を見ているのだ。どうしてこんな夢を見ているのかは分からないが、もしかしたら俺の深層心理を反映させた内容になっているのかもしれない。
「これも一つの可能性だよな。今の俺が俺そのものではない、いろんな俺自身があり得たんだ」
少しでも選択肢が違えばこんな未来だってあり得たかもしれない。そんな事を考えると本当にただただ虚しかった。
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