如月アラン編

第36話 さて、一体何のことかしら。そんな事は全く記憶に無いわね

「アラン、おめでとう。あなたは今日でこの家から追い出される事になったわ」


「な、なんで俺が家から追い出される事になるんだよ!?」


 私はアランに対して満面の笑みで両親からの決定事項を伝えたわけだが、どうやらこの愚弟は納得がいかないらしい。機嫌が良かった私は親切にも説明してあげる事にする。


「ショッピングモールで白昼堂々と強制わいせつ事件を起こしたんだから当然でしょ。大切な娘を犯罪者と一緒には住ませられないってパパが言ってたわ」


 アランが剣城雪奈に対して無理矢理キスしたあの行為は言うまでもなく立派な犯罪だった。

 今回は両親が剣城雪奈の家族に謝罪をした事によってなんとか示談で済んだが、本来ならば捕まってもおかしくなかったと言える。

 私としてはどうでもいい事だが、剣城雪奈はあの一件が原因で精神を病んでしまったようで、引き篭もるようになってしまったらしい。


「ちょっと待てよ、あれは姉さんに命令されて仕方なくやっただけで俺の意思じゃなかっただろ」


「さて、一体何のことかしら。そんな事は全く記憶に無いわね」


「なっ!?」


 私がそうしらばくれるとアランは絶句してしまった。そもそもアランに対する今までの命令は全て口頭で行なっているため証拠は何も残っていない。

 つまりアランが何か騒いだとしても無駄だ。周りからはただの見苦しい言い訳としか認識されないだろう。


「分かったらさっさと家から出て行く準備をしなさい。ちなみに仕送りとかの援助は一切しないって言ってたから仕事も探した方がいいかもね」


「くそっ、なんでこんな事に……」


 もはやアランはうなだれながらそうつぶやく事しか出来なかった。私はそんなアランをその場に残して自分の部屋へと戻る。

 アランの一番の失敗は私に弱みを握られてしまった事に違いない。中学3年生のあの日、アランは全裸で自慰をしていたわけだが、その際にタブレットで見ていた動画が問題だったと言える。

 アランが見ていたのは明らかに盗撮と分かる快斗君がプールの授業で水着に着替えている動画だった。つまりアランの抱えた爆弾とは、ゲイである事と盗撮犯である事の2つだ。

 ちなみに快斗君の盗撮動画や写真などは複数あったため、その証拠を隠滅される前に全て私が押収した。

 アランはゲイである事だけならまだしも、盗撮犯である事までバラされてしまえば自分の人生がめちゃくちゃになってしまうと思ったらしい。

 だからアランは愚かにも私に従うという選択肢を選んでしまったのだ。そのせいで強制わいせつ事件を起こして人生がめちゃくちゃになっているのは本当に皮肉な話と言える。


「私から命令するのは今回が最後だって言ってたから一刻も早く解放されたかったんでしょうけど、それにしても考えが浅はか過ぎたわね」


 突然キスをする行為が犯罪だという事は少し考えれば分かりそうな話だが、アランはそこまで考えが至らなかったらしい。まあ、思考停止状態になるほど追い詰めたのは私だが。


「後は家から追い出されたアランがどんな行動に出るかだけは注意が必要ね」


 崖っぷちのアランがどんな手段に出るかは何となく想像できるが、警戒しておくに越したことはない。

 もし私の快斗君に手を出そうとしたその時は絶対に許さないつもりだ。もしそんな事をしようとした場合は絶対にアランを地獄の底まで突き落とす。





◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





「剣城君、元気になったんだね」


「また学校に来れるようになって良かったな」


 久々に学校に登校した俺はクラスメイト達から温かく迎え入れられていた。ようやく医師から復帰の許可が出たのだ。

 ただ3ヶ月以上も学校を休んでしまったためこれからが本当に大変と言える。なぜなら授業の単位を取得するための出席日数が全く足りていないからだ。

 本来であればその時点で留年が確定するわけだが、病気で休んでいたという正当な理由があったため春休みの補習に参加すれば特別に単位認定をされると東雲先生から言われていた。

 しかし、補習は春休み期間のほぼ毎日行われるため、どうやら俺に休みはないらしい。それを聞いてかなり萎える俺だったが、留年する方がはるかにまずかったため仕方がないだろう。

 それからあっという間に時間は経過し、気づけば昼休みになっていた。俺は箸と弁当箱を持つと教室を出て屋上に向かい始める。その理由は勿論エレンと一緒に昼休みを過ごすためだ。


「エレン、お待たせ」


「快斗君、待ってたよ」


 エレンと合流した俺は彼女を抱き寄せると人目も気にせず激しくキスをする。そう、俺とエレンは付き合い始めていた。

 自分が壊れてしまったと自覚したあの日からエレンに対する思いはどんどん強くなっていき、次第に彼女の身も心も手に入れたいと思うようにまでなってしまったのだ。

 だから俺はエレンに告白した。もし断られてしまったとしてもエレンは絶対俺だけの物にする。どんな汚い手段を使ってでも。そう思っていたわけだが、心配無用だった。

 なんとエレンは俺からの告白を2つ返事で受け入れてくれたのだ。どうやらエレンは小学生の頃から俺の事をずっと好きだったらしい。こうして俺とエレンは無事に付き合う事になった。

 ちなみにエレンとはまだエッチしていない。俺としては愛しいエレンと今すぐにでも一つになりたかったのだが、彼女曰くまだその時期ではないとの事だ。

 だが近いうちにその時期は来ると言っていたのでもう少しの辛抱だろう。キスを終えた俺達は2人で仲良くお弁当を食べ始めた。

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