第34話 やっぱり今の俺って絶対どこかおかしくなってるよな

 観覧車の中で告白されたあの日以降、雪姉は俺に対して度々スキンシップを取ってくるようになっていた。

  美人な女性からのスキンシップは普通に考えて嬉しいものだと思うのだが、正直言って俺は全く嬉しくなかった。

 それどころか原因不明の不快感すら覚えてしまったため、俺は自分自身の事が分からなくなっている。

 今までの俺であれば絶対喜んでいたに違いない。たとえそれが恋愛対象の相手では無かったとしてもだ。


「……そもそも俺は雪姉の事を今でも女性として好きなんだろうか?」


 告白されてから2週間あまりが経過しているためそろそろ結論を出したいところだが、それが未だに分かっていない。

 そんな事を考えているうちにかなりの時が過ぎていたようで、いつの間にか雪姉が来る時間帯になっていた。


「快斗、おはよう」


「雪姉おはよう」


 俺は部屋にやって来た雪姉をいつも通り出迎える。今日は普段持っていない紙袋を右手に持っていたため、ここに来る前どこかに寄っていたのかもしれない。そんな事を思っていると雪姉がその紙袋を俺の前に差し出してきた。


「これは私からの快斗へのプレゼントだ」


「……どうして?」


 なぜプレゼントをくれたのか疑問に思った俺がそうつぶやくと、雪姉は以外そうな顔になって口を開く。


「だって今日は快斗の誕生日だろ」


「……あっ!?」


 雪姉の言葉を聞いて今日が自分の誕生日である事にようやく気づいた俺はそう声をあげた。学校を長期間休んでいたせいで日付の感覚が完全に狂っていたようだ。


「早速開けてみてくれ」


「分かった、何が入ってるんだろ」


 紙袋の中から綺麗にラッピングされた長方形の箱をゆっくりと取り出す。そして丁寧に開封していくと中には青いチェック柄のお洒落なマフラーが入っていた。


「何をプレゼントしようか結構迷ったのだが、1月でまだまだ寒い今の季節にはこれがピッタリというアドバイスを貰ってな」


「マフラーは普通に欲しいと思ってたから嬉しい。雪姉ありがとう」


 俺がそう感謝の言葉を伝えると雪姉はちょっと照れたような、それでいて少し恥ずかしそうな顔で話し始める。


「喜んでくれて何よりだ、大切に使ってくれ。ちなみにプレゼントしたマフラーは私が使ってるものの色違いなんだよ……まあ、いわゆるペアルックという奴だな」


 ペアルックという言葉を聞いて雪姉と色違いのマフラーをつけて街中を歩いている姿を想像した俺だったが、その瞬間猛烈な不快感が襲ってきた。

 なぜ自分がそんな気分になってしまったのかは全く想像もつかなかったのだが、とにかくめちゃくちゃ不快だった。


「あっ、そうだ。せっかくだから私が快斗の首に巻いてあげるぞ」


 異変に全く気づいていない様子の雪姉は嬉しそうな表情でそんな事を言いながら俺の持っているマフラーを取ろうと手を伸ばす。

 しかしそれは叶わなかった。なぜなら俺が雪姉の手を思いっきり振り払って拒絶してしまったからだ。


「……えっ!?」


 雪姉は一体何が起きたのか分からないと言いたげな顔で固まってしまった。だがすぐに今の状況を理解して今にも泣きだしてしまいそうな顔になる。


「……ごめん、今日はもう帰る」


 そう言い残すと雪姉はその場で呆然としている俺を残して部屋から出て行ってしまった。





◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





 誕生日から1週間が経過したわけだが、あの日以降雪姉は俺の部屋に一度も来ていない。

 その原因は間違いなく俺が手を払いのけてしまったからに違いないが、なぜあんな事をしてしまったのか自分自身でもよく分かっていなかった。

 あの時は体が無意識に動いてしまっただけで、俺としてはあんな事をするつもりは一切無かったのだ。


「やっぱり今の俺って絶対どこかおかしくなってるよな、病気治ってたんじゃ無かったのかよ」


 俺は雪姉が来なくなって悲しい気持ちになるどころか、なぜか安心した気持ちになっていた。はっきり言って俺は自分の事が全く分からなくなってしまっている。


「元気出して。きっと雪奈さんも快斗君がわざとやった訳じゃないって分かってくれるよ」


「ああ、そうだといいな」


 俺と雪姉の間で起こった不幸な出来事を知ったエレンは俺の部屋に来るたびにこうやって励ましてくれていた。

 そんな優しい言葉はとにかく本当に心地よかったのだが、それと同時にエレンに対するドス黒い独占欲のような感情が日に日にどんどん強くなっている事に気づき、俺は自分自身に恐怖している。

 このままではいつか取り返しがつかない事になってしまうと思った俺はエレンと少し距離を取ることも考えた。

 だが最近はエレンと一緒にいないとなぜか気持ちが落ち着かなくなってしまったため結局離れる事ができなかったのだ。


「快斗君、さっきから私の顔を見たままずっと固まってるけど大丈夫?」


「……あっ、ごめん。ちょっと頭がぼーっとしちゃってさ」


 エレンの言葉を聞いて我に返った俺は慌ててそう答えた。この時の俺はもう既に色々と手遅れになってしまっている事にまだ気づいていない。

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