第33話 ふふっ、もう少しだね。早く堕ちてくれないかな

 雪姉から告白された俺だったが、驚きはしたものの正直言って嬉しさはほとんど無かった。ヒカルの一件があったせいで俺は誰かと付き合う事に対して恐怖を覚えているのかもしれない。

 俺のおかしな様子にはエレンも気付いたようで、あれから一夜が明けた今日、昨日の事を根掘り葉掘り聞かれている。


「……へー、雪奈さんから観覧車の中で告白されたんだね」


「そうなんだよ、突然だったからマジで驚いたよ」


「それで快斗君は告白の返事はどうするつもりなのかな?」


 黙って俺の話を聞いていたエレンだったが、そう尋ねてきた。多分俺がどうするつもりなのか気になっているのだろう。

 だが俺としてもどうするべきなのか決めかねているというのが正直なところだ。今でも雪姉の事は確かに好きなのだが、それが恋愛的に好きなのかそうでないのかは分からない。

 そもそも恋愛に対してトラウマがある今の状態の俺と付き合ったとしてもうまく行くとはあまり思えなかった。

 だから少なくても今すぐに告白の返事をするつもりは無い。俺はそう考えている事をエレンに伝えた。するとエレンは少し何かを考えたような表情になってから口を開く。


「……そっか、快斗君の考えはよく分かったよ。でも私としては付き合うにしろ、断るにしろ早く結論を出してあげた方がいいと思うな」


 確かに雪姉は今すぐ返事はしなくていいと言っていたが、出来る限り早く返事が欲しいと思っているに違いない。そう思った俺は口を開こうとするが、心の中にドス黒い感情が込み上げてきている事に気付き困惑する。

 このドス黒い感情の正体は分からなかったが、とにかくイライラさせられた。病気は良くなってきているはずなのに、最近こんな事が多いためちょっと心配になってしまう。


「快斗君、急に黙り込んじゃったけど大丈夫?」


「……ああ、大丈夫」


 原因不明の苛立ちが全く収まりそうになかった俺はそう短く答えるのが精一杯だった。そんな俺の様子を見たエレンが一瞬だけ嬉しそうな表情を浮かべた気がするが、多分気のせいだろう。

 それから少しだけギクシャクしつつも会話をしているうちにだんだんと落ち着きを取り戻し始めた。だがそんな事をしていたうちに結構な時間が経過していたらしい。


「あっ、もうこんな時間になってる。この後用事があるからそろそろ帰るね」


「……なあ、最近用事が多いみたいだけど一体何があるんだ?」


 少し迷ったが俺はここ最近気になっていた質問をエレンにぶつけてみた。するとエレンは機嫌が良さそうな表情で話し始める。


「実は最近ヨガを習い始めたんだ。プライベートレッスンだからマンツーマンで教えて貰えるし、中々楽しいの」


「……ち、ちなみにインストラクターって女性だよな?」


「ううん、男の人だよ。背がめちゃくちゃ高くて顔も結構ハンサムだから行くのが楽しみなんだよね」


 その言葉を聞いた瞬間、俺の心の中に再びドス黒い感情が急速に湧き上がってきた。やはりこの感情が何なのかはよく分からなかったが、とにかく猛烈に不愉快な気分になっている。


「じゃあそろそろ私行くね。快斗君またね」


 そう言い残して部屋から出て行くエレンを、俺はただ黙って見ている事しか出来なかった。





◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





 快斗君の家を出てヨガへと向かい始める私だったが、めちゃくちゃ上機嫌になっていた。そうなっている理由はとても嬉しい事があったからに他ならない。


「快斗君、インストラクターの話をしたら凄い顔になってたな。あれは間違いなく嫉妬してたよね」


 先程の快斗君は間違いなくインストラクターに対して激しく嫉妬をしていた。嬉しかった事はそれだけではない。


「剣城雪奈への告白の返事について話していた時もかなりイライラしてたみたいだし、私の計画もだいぶ順調だな」


 快斗君があの時イライラしていた理由は簡単で、それは剣城雪奈という他の女から告白された事を話したにも関わらず私が一切嫉妬したそぶりを見せなかったからだ。

 今の快斗君は如月エレンという人間に対してかなり歪んだ独占欲を抱いているはずなので、私の態度はさぞかし癪に障ったに違いない。

 まあ、快斗君がそんな風になってしまったのは全部私の仕業だが。快斗君の精神は窓から飛び降りようとしたあの日にほとんど壊れてしまってたため、洗脳するのは容易だった。

 後は今回の計画の総仕上げとして剣城雪奈とアランを利用する。そして快斗君の精神を完全に破壊して身も心も私だけの物にするのだ。


「ふふっ、もう少しだね。早く堕ちてくれないかな」


 もうすぐ訪れるであろう薔薇色の未来を想像した私は全身に性的快感を感じながらそうつぶやいた。さっきから数えるのを辞めてしまうくらい何度もイっているのだから、快斗君が私だけの物になった時の快感は計り知れない。

 そんな事を思っているうちに目的地に到着した私は、興奮してぐちょぐちょになってしまった下着を忘れずに予備と交換してからヨガのプライベートレッスンに参加するのだった。

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