第25話 えっ、飛龍さん何してんの!?
「あれ、飛龍さん? こんなところで会うなんて奇遇だな」
「つ、剣城君。こんにちは」
学校が休みの日曜日、家の近くにあるショッピングモールに来ていた俺だったが、そこで偶然飛龍さんと遭遇した。
声をかけると何故かめちゃくちゃ挙動不審になった飛龍さんだったが、恐らく突然俺と遭遇して驚いているだけだろう。俺は飛龍さんが落ち着くのを待ってから話しかける。
「今日は買い物にでも来てるのか?」
「うん、そうだよ。ちなみに剣城君は?」
「俺はただぶらぶらしに来ただけ。もし何か欲しい物があれば買おうかなとは少し思ってるけど」
このショッピングモールには勉強の息抜きでよくぶらぶらしに来ており、今日もそのパターンだ。そんな事を考えていると飛龍さんは恐る恐る話しかけてくる。
「……せっかく会えたんだし一緒に回らない?」
「いいな、そうしよう」
特に断る理由も無かったので俺は快諾した。それから俺達はしばらく2人で店内をあちこち回り始める。普段見慣れたショッピングモール内も飛龍さんと一緒なせいか少しだけ新鮮に感じられた。
「……そう言えばここのショッピングモールに来てるって事はひょっとして飛龍さんってこの辺に住んでたりする?」
「ううん、住んでるのは学校からちょっと北に行った辺りかな」
その言葉を聞いて俺はちょっとだけ驚く。このショッピングモールは学校からかなり南に進んだ位置にあるため、飛龍さんの家がある辺りとは完全に正反対なのだ。
学校の北側にも商業施設などは色々とあるため、どうしてわざわざこのショッピングモールに来たんだろう。そんな疑問が頭に浮かぶ俺だったが、それを質問するより前に飛龍さんが口を開く。
「そう言えばもうそろそろお昼の時間だね」
「あっ、もうそんな時間になってるのか」
飛龍さんの言葉を聞いて腕時計を確認した俺はそうつぶやいた。2人でぶらぶらしていたうちにいつの間にか結構長い時間が経っていたようだ。
「お昼ごはんはどうする? ここなら食べるところもたくさんあるから選択肢は色々あると思うけど」
「そうだな、どうしようか……」
俺達は何を食べるか歩きながら話し始める。俺1人できているのであれば適当にラーメンとかで済ませるところだが、女子の飛龍さんがいるためそうはいかない。スマホで飲食店の情報を見ながら話し合った結果、イタリアンで昼食をとる事になった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ごめん、ちょっとトイレ行ってくる」
「うん、いってらっしゃい」
イタリアンで昼食を食べながら2人で楽しく日頃の事を雑談していた俺達だったが、急にトイレに行きたくなってしまったため飛龍さんに一声かけてから席を立ち、まっすぐトイレに向かう。
そして用を足して戻り始める俺だったが、何気なく外からガラス越しに店内の中を覗いた瞬間とんでもない光景が飛び込んできて自分の目を疑う。
「えっ、飛龍さん何してんの!?」
なんと飛龍さんは俺が使っていたフォークやコップを嬉しそうな顔で舐めていたのだ。最初は見間違いでは無いかと思う俺だったが、残念ながら見間違いでは無さそうだった。
飛龍さんが一体何の目的でそんな行為をしているのかはさっぱり理解できない。ひょっとして夢を見ているのでは無いかと思い始める俺だったが、顔をつねるとちゃんと痛かったため現実のようだ。
「……このまま立ち止まってても仕方ないし、とにかく席に戻ろう」
だんだん戻るのが怖くなり始めた俺だったが、戻らないという選択肢は取れそうにない。何とか平静を装って俺が席に戻ると飛龍さんは何事もなかったかのように座ってカルボナーラを食べていた。
「おかえり」
「た、ただいま」
俺は少し噛みつつそう答えるとゆっくり席に座る。先程何も見ていなければ皿に残っているペペロンチーノを食べ始めていただろうが、飛龍さんが俺のフォークを口に含んでいた場面を見てしまった以上それはできそうになかった。
俺が無言で黙ったまま微動だにしないでいると、飛龍さんは不思議そうな表情を浮かべて話しかけてくる。
「剣城君、戻ってきてから全然手が進んでないみたいだけど一体どうかしたの?」
「いや、実はもうお腹いっぱいになっちゃってさ。これ以上食べられそうにないんだよ」
そう聞かれた俺が咄嗟にそう言い訳すると、飛龍さんは心なしか残念そうな表情になってしまった。もしかすると飛龍さんは自分が舐めたフォークやコップを俺に使って欲しいと思っていたのかもしれない。ひょっとして飛龍さんはとんでもない変態なのだろうか。
そんな事を考え始める俺だったが結論は出そうにない。それからしばらくして店内を後にした俺達は再びショッピングモール内を回り始めるわけだが、飛龍さんを見る度にさっきの場面を思い出してしまいそうになったためまともに顔を見れなかった。
明日から飛龍さんと一体どんな顔で接して過ごせばいいのだろうか。俺は色々と話しかけてくる飛龍さんをそっちのけでそんな事ばかり頭の中で考えていた。
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