飛龍ヒカル編
第23話 そんな緊張しなくていいよ、クラスメイトなんだしさ
姫宮先生が逮捕されてから1ヶ月以上が経過した。自分のクラスの担任が淫行で捕まったと知った俺のクラスメイト達は最初こそ様々な反応をしていたが、夏休みを挟んだ事もあって今ではほとんど話題にならなくなっていた。
今俺達のクラスで話題の中心になっているのは転校生の事だ。今日からこのクラスに来ると昨日のホームルームで連絡されていたため、朝から教室内はその話しで持ちきりだった。
「転校生ってどんな子だろ?」
「女子らしいし、可愛い子だったらいいな」
そんな感じの会話が教室のあちらこちらから聞こえてきているわけだが、俺はというといつも通り朝から授業の予習に励んでいた。正直これからやってくる転校生には全く興味が無い。
どうせ関わる事なんて恐らくほとんど無いのだから。そんな事を考えながらしばらく予習を続けていると教室の扉が開き新しく担任になったアラサーの女性教師、
うちの高校ではテストの日以外朝のホームルームは基本的に無いが、今日は転校生の紹介があるため例外となっている。東雲先生は教壇に立って教室内が静まり返ったのを確認すると口を開く。
「喜べ男子、今日は噂の転校生を紹介する」
東雲先生がそう言い終わると教室前方の扉が開いた。それから転校生が教室の中へと入ってくるわけだが、彼女の姿を見たらしいクラスメイト達がどよめき始める。
下を向いて予習を続けていた俺だったが、なぜ教室内が騒がしくなったのか気になって顔をあげた。すると黒板の前に立ってかなり緊張したような表情を浮かべた白い髪色のミディアムヘアで赤い瞳をした転校生の姿が目に飛び込んでくる。
なるほど、どうやら転校生は日本で2万人に1人しかいない先天性白皮症、いわゆるアルビノという奴らしい。その上かなり整った容姿をしているためクラスメイト達、とくに男子達が騒ぎ出すのも無理はない。
「じゃあ自己紹介よろしく」
「箱根から引っ越してきました、
東雲先生から促された飛龍さんはそう短く自己紹介をした。そして飛龍さんは準備されていた席に座る。クラスメイト達は色々と質問をしたそうな表情をしていたが、すぐに1時間目の授業である世界史Bが始まってしまう。
それから1時間目の授業が終わった休み時間、飛龍さんはクラスメイト達に取り囲まれて質問攻めにあっていた。
「飛龍さんって、前はどこの学校だったの?」
「前は部活とかやってた? 運動系? 文化系?」
「彼氏とかっている? めちゃくちゃ美人だけど」
「あ、あの……私、その」
だが飛龍さんはいきなり大量に質問されて完全にテンパってしまっているらしく、上手く答えられない。その様子的に恐らくかなりの人見知りなのだろう。だんだん可哀想になってきた俺は助け舟を出す。
「なあ、みんな。飛龍さんも多分転校初日で緊張してると思うし、質問はもう少し控えめにしてあげないか?」
「……確かにいきなりグイグイ行き過ぎたかも。飛龍さん、ごめんね」
俺の言葉を聞いてクールダウンしたクラスメイト達はさっきよりも控えめに質問をし始めた。飛龍さんもだんだん落ち着いてきたようで、クラスメイト達の質問にゆっくりと答えている。そんな様子を見て満足した俺は再び授業の予習に戻った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
帰る前のホームルームが終わり、いつものように帰ろうとしていると突然後ろから誰かに話しかけられる。
「あの、朝はありがとうございました」
全く聞き覚えの無い声だったので一体誰に話しかけられたのかと思いながら振り向く俺だったが、後ろには飛龍さんが立っていた。
「……飛龍さんか、どういたしまして。多分みんな悪気はないんだけど転校生なんて珍しいから、舞い上がっちゃってさ」
「なるほど、そうだったんですね。えっと……」
何か言おうとしたらしい飛龍さんだったが、ちょっと困った顔をして口ごもってしまう。それを見て何に困っているのか予想がついた俺はすぐに口を開く。
「そう言えばまだ名乗ってないから俺の名前分からないよな。俺は剣城快斗、よろしく飛龍さん」
そう答えると飛龍さんはちょっと嬉しそうな表情になったため正解だったようだ。
「はい、よろしくお願いします」
「そんな緊張しなくていいよ、クラスメイトなんだしさ。別に敬語も必要ないし」
まだ緊張した様子の飛龍さんに対して俺は優しい声で話しかけた。するとわずかだが緊張がとけたようだ。
「剣城君、ありがとう……それで一つお願いがあるんだけど聞いてもらえない?」
「俺にできる事なら勿論聞くよ」
「じゃあ職員室まで連れて行って貰えないかな? まだ場所がよく分からなくて」
「そっか、転校初日だもんな。オッケー、任せて」
飛龍さんはちょっと申し訳なさそうな顔をしていたが、そのくらいお安い御用だ。職員室は靴箱の反対方向にあるためエレンにはちょっとだけ待って貰う事になるが、まあ大丈夫だろう。
それから俺達は職員室を目指して歩き始めた。そして後少しで到着しそうというタイミングでハプニングが起こる。なんと飛龍さんが階段を登っている最中にバランスを崩して転落しそうになってしまったのだ。
「危ない!?」
反射的に体が動いた俺は飛龍さんの背中に手を回して抱き寄せる。それによって階段の下に落下するという最悪の事態はなんとか避ける事ができた。
「……助けてくれてありがとう。でもそろそろ離してくれたら嬉しいな」
「ご、ごめん」
しばらくお互いに固まっていた俺達だったが、我に返ったらしい飛龍さんからそう話しかけられたため慌てて離れる。飛龍さんの顔が赤く染まっている事を考えると突然俺に抱き寄せられて怒っているのかもしれない。
「こ、ここまで来れば職員室の場所はもう分かるから大丈夫。案内してくれてありがとう」
飛龍さんは相変わらず顔を赤く染めたまま早口で一方的にそう言う言い残すとその場から走り去ってしまった。
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