第17話IF エレンとアランを虐める奴は絶対俺が許さない
キーホルダーが机の中から出てきた事で篠原さんからビンタされ、さらにクラスメイト達から容赦ない悪口を言われ始めた私は頬を押さえながら今にも泣き出しそうになっていた。
するとそれまで黙り込んでいたアランが席から立ち上がってこちらへ向かってくる。そして私の前に立つと緊張したような、だがそれと同時に何かを決心したような表情で口を開く。
「お、お姉ちゃんは絶対そんな事やってないよ」
言葉は噛み噛みで声もかなり震えていたが、アランはクラス中に聞こえるような大きな声ではっきりとそう言ってくれたのだ。その言葉を聞いた瞬間、私は嬉しさのあまり泣き出してしまう。
四面楚歌な状況に陥っていた私にとってアランの言葉は本当に救いだった。だがそんなアランの言葉を聞いてさらに不機嫌になった人物がいた。それは言うまでもなく篠原さんだ。
「姉弟揃って私にたてつくなんて良い度胸してるじゃん。覚悟しときなさいよ」
そう言い残すと篠原さんは自分の席へと戻っていった。それから篠原さんは時折こちらを見ながら友達とヒソヒソと何か話し始める。そんな彼女達の様子を見て私は嫌な予感を覚えた。
そして嫌な予感は見事に適中する事になる。昼休みいつも通り快斗君とアランの3人で過ごした後トイレに行った私だったが、なんとホースで頭から思いっきり水をかけられたのだ。後ろを振り向くとホースを持ってニヤニヤした表情を浮かべたクラスメイトの女子が立っていた。
「何するの!?」
「ごめんごめん、手を洗おうとしたら間違えてホースの方をひねっちゃてさ」
一応謝罪の言葉を口にはしていたが、全く悪びれた様子がない事を考えると絶対わざとに違いない。びしょ濡れのまま教室に戻った私は、ロッカーに入っていた体操服を手に取ると、保健室に行って着替える。
それから教室に戻るとアランが泣きそうな顔になりながら机に書かれた何かを消しゴムで消していた。不思議に思った私が机を覗き込むと、なんとそこにはアランの悪口が大量に書かれていたのだ。
消すのを手伝おうと思って筆箱に入っている消しゴムを取りに席へと戻るわけだが、私の机にもびっしりと悪口が書かれていた。さらに私の机の上に置いてあった筆箱や中に入れていた教科書やノートなどが何一つ見当たらない。
探し始める私の様子を見てクラスメイト達はヒソヒソしながら嘲笑っている。結局私の筆箱と教科書やノートは教室のゴミ箱の中に捨てられていたわけだが、どれもぼろぼろにされていたのだ。以前までのいじめよりも明らかに悪質さが増している事に恐怖を覚える私だったが、これはまだ序の口に過ぎなかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
あれから1週間が経過したわけだが、私達姉弟に対するいじめは過激さを増していた。机を校庭に捨てられたり、階段から突き落とされたり、給食の中に虫の死骸を入れられたりと、いじめはどんどんエスカレートしている。
当然いつも一緒に過ごしている快斗君はすぐ私達の異変に気付いたわけだが、クラスが違う事もあって中々助けに動けない。だから私達は精神的にかなり追い詰められて学校を休みがちになってしまったのだ。
そして今日、朝から暗い顔をしながら登校した私達だったが、教室に入るとクラスメイト達がニヤニヤした表情でこちらを見ていた。私とアランはそんな視線を無視して机に向かう。しかし机の上に置かれていたものを見て私は思わず声をあげてしまう。
「……何よこれ」
なんと私とアランの机にはそれぞれ花瓶が置かれていたのだ。私達姉弟はクラスメイト達から死を望まれているらしい。深い絶望を感じながらそんな事を思っていると隣からすすり泣く声が聞こえてきた。
どうやらアランが泣き出してしまったようだ。だが私も視界もぼやけ始めた事を考えると涙を流しているに違いない。そんな私達2人の様子を見てクラスメイト達はゲラゲラと笑い始めた。
もう私達は駄目かもしれない。そう思い始めた時だった。突然クラス内に聞き覚えのある大きな声が響き渡る。
「お前ら、いい加減にしろよ。皆んなで寄ってたかってエレンとアランばっかりそんなに虐めて何が楽しいんだ」
俯いていた私達が顔をあげるとそこには怒った表情をした快斗君が立っていた。突然扉を開けて入ってきた快斗君が大声でそんな事を叫んだため、教室内は一瞬静まり返る。しかしすぐに篠原さんが騒ぎ始めてしまう。
「ちょっとあんた、うちのクラスの人間じゃないくせにでしゃばってこないでよ」
「そうだ、そいつはランドセルについてた篠原さんのキーホルダーを盗んだ悪い泥棒とそれを味方した奴なんだぞ」
篠原さんに便乗したクラスメイトの男子の1人が快斗君に詰め寄ってそんな事を言い始めるが、快斗君は一歩も引かない。
「エレンがそんな事するわけないんだしアランが味方をするのは当たり前だろ。そんな事も分からないなんてお前らめちゃくちゃアホだな」
その言葉を聞いて逆上した篠原さんは快斗君にビンタしようとする。だが快斗君はそれを避けると篠原さんの頬を思いっきり殴り飛ばした。
快斗君に殴られて床に倒れた篠原さんの姿を見たクラスメイト達は再び静まり返る。だが篠原さんが大声で泣き始めたため教室内が静かだったのは一瞬だ。
「女の子を殴るなんて最低」
「先生に言いつけてやる」
篠原さんの友達がそう騒ぎ出すが、快斗君はどこ吹く風といった様子だった。そんな様子を見て、先程快斗君に詰め寄った男子が、横から彼に殴りかかる。
それに気付いた私とアランは慌て始めるが、心配はいらなかった。快斗君はパンチを手のひらで受け止めると、反撃で思いっきり相手の股間を蹴り上げたのだ。
「エレンとアランを虐める奴は絶対俺が許さない。もしそんな奴がいたら必ず後悔させてやるからな、覚悟しろよ」
快斗君はそう言ってクラスメイト達を睨みつけると私とアランの手をとって教室から出ていった。
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