過去編
第16話 それはあなたがあの時私の事を見捨てたからよ
新宿歌舞伎町2丁目で過呼吸を起こした快斗君を助けたあの日から今日で3日だ。今週は月曜日の朝から職員室の中が大騒ぎとなり、急遽一部の授業が無くなるなど学校は大混乱に陥っていた。その理由は言うまでもなく姫宮千花が原因だ。
アランがラブホテルで隠し撮りした写真のデータを、私は学校と教育委員会のメールアドレス宛に送りつけた。それによって姫宮千花が
「私の快斗君に手を出そうとするからそうなるのよ。これだけで済ませてあげたんだから有り難く思いなさい」
学校から邪魔な女である姫宮千花を排除でき、それと同時に絶望で打ちひしがれた快斗君を救う事ができたため私としては非常に満足行く結果になったと言える。計画通りに事が運んでかなり上機嫌な私だったが、それとは対照的にアランはかなり弱っていた。
「……もう嫌だ、なんで俺ばっかりこんな目に遭わなきゃならないんだ」
リビングのソファーに横たわっているアランは弱々しい声でそんな事をぶつぶつとつぶやいていた。普段ならアランと同じ空間に1秒たりとも居たくないため無視して部屋に戻る私だったが、今日は機嫌が良いため答えてあげる事にする。
「それはあなたがあの時私の事を見捨てたからよ」
「そ、それは姉さんの勘違いだ。少なくとも俺はそんなつもりじゃ無かった」
「ふん、今更あなたの言い訳なんて聞きたく無いわ」
そう言い残すと私はまだ何か話したそうにしているアランをリビングに放置して自分の部屋へと戻った。
私が壊れてしまったのは快斗君が原因だが、その一番最初のきっかけを作ったのはアランなのだ。今の私を生み出す要因となった数々の出来事を、まるで昨日の事のようにはっきりと思い出せる
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
私は昔から学校に行く事が嫌いだった。その気持ちは小学校4年生になった今でも変わらない。なぜなら学校に行くとクラスの皆んなから嫌がらせをされるからだ。
イギリス人であるお母さんの血を強く受け継いで生まれてしまったせいで私は金髪碧眼という日本人離れした容姿をしており、それが原因でいじめを受けている。
「ガイジン、こっちに近寄るな。あっちいけ」
「早く国に帰れよ。ガイジン菌がうつるから」
「髪は金色だし、目も青いし、マジで気持ち悪い」
通りすがりにこんな悪口を言われるのは日常茶飯の事であり、よく上履きやランドセルなどを隠されていた。そんな学生生活を送っていれば学校に行きたくないと思ってしまう事は当然に違いない。
だが私には心強い味方がいた。それは幼馴染の快斗君と弟のアランだ。2人はいじめを受けている私の事をいつも助けてくれていた。
「お前ら、エレンをいじめるな」
「お姉ちゃん、大丈夫?」
そうやって快斗君とアランがいつもいじめっ子達を追い払って守ってくれているから私は今日も学校に来る事が出来ているのだ。この2人が居なければとっくの昔に学校へ行けなくなっていたに違いない。
ちなみに髪が茶髪で緑眼のアランも嫌がらせを受けていたが、周りの男子達よりも体格が良い事もあって私よりはいじめがマシなようだ。
「何かあったら僕と快斗がお姉ちゃんの事を絶対助けるから」
「ああ、俺達の事をいつでも頼ってくれ。俺は何があっても絶対エレンの味方だからさ」
「快斗君、アラン。いつも助けてくれて本当にありがとう」
私は快斗君とアランの事を心の底から信頼しているし本当に大好きだった。だからもし2人から裏切られるような事があればきっと私は壊れてしまうだろう。
だが2人が私の事を裏切ったりするなんて絶対に無いはずだ。私達3人は昔から強い絆で結ばれているのだから。
「そう言えば快斗君、今日返された算数のテストはどうだったの?」
授業が終わった帰り道、私は快斗君の算数のテスト結果が気になってそう尋ねた。すると快斗君は一瞬黙り込んだ後、明らかに挙動不審な態度で口を開く。
「……ま、まあまあだったかな」
「って快斗は言ってるけど20点くらいだったのを僕は知ってるよ」
「あっ、おいアラン。せっかくエレンには誤魔化せたと思ったのに速攻でバラすなよ」
そんな2人のやり取りを聞いて私は思わず笑い出してしまう。私に笑われた快斗君は恥ずかしそうに顔を赤らめたわけだがらその姿がちょっとだけ可愛かった。
「ふふっ、快斗君は相変わらず勉強が苦手なんだね。また私が教えてあげる」
「うっ……よろしく」
「特に英語なら僕と姉さんの得意分野だから任せてよ」
3人の絆はたとえ何年経っても今のまま必ず続くと思っているため、中学生や高校生になってもきっとこんな感じでやり取りをしているに違いない。この時の私はそう信じて疑わなかった。
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