第17話 私はアランに見捨てられちゃったんだ……

 小学5年生になった私だったが、相変わらず嫌がらせやいじめは続いていた。悪口を言われる事や物を隠される事、仲間外れにされる事などは日常茶飯事だ。

 そのせいで辛い日々を過ごす私だったが、快斗君とアランがいてくれるおかげで頑張って学校へ行く事ができていた。

 快斗君とはクラスが違うため多少の心細さはあったが、休み時間は一緒に過ごしていたためあまり寂しさは無い。

 やっぱり私達3人の絆は強力で永久に不滅だ。そんな事を思いながら今日も朝から学校に行く私だったが、クラスに着くと何やら不穏な空気が流れていた。


「なあなあ、篠原さんがランドセルにつけてたキーホルダーの事って何か知ってる?」


「えっ、私は全然知らないよ。何かあったの?」


「実はさ……」


 周りの会話に耳を傾けると、どうやらクラスの中心的人物である篠原しのはらさんの大切にしていたキーホルダーが昨日から見当たらないらしいのだ。

 絶対クラスの誰かに盗まれたと騒いでいたため、クラスの雰囲気は悪くなる一方だった。クラス全体が暗い雰囲気になって静まり返っている中、誰かがポツリとつぶやく。


「ひょっとしてあの金髪ガイジンがキーホルダーを盗んだ犯人なんじゃね?」


 次の瞬間、クラス中の視線が私に集中する。その視線は私を疑うようなものばかりなわけだが、キーホルダーなんて盗んで無いのだからはっきり言ってただの言いがかりでしかない。

 だが周りは完全に私を犯人だと決めつけ始めていたため、正直かなり不味い状況だ。さらに悪い事に篠原さんが私に詰め寄ってきてしまう。


「ねえ、あんたが私のキーホルダー盗んだって本当なん?」


「違う、私は絶対そんな事やってないよ」


 そう必死に否定する私だったが、篠原さんは全く信じてくれようとしない。


「そんな事言われても信用できないからさ。とりあえず机の中とかランドセルの中を全部見せてよ」


「分かった、それで信用してくれるなら篠原さんに全部見せるよ」


 それで誤解が解けるのであれば安いものだと思い、私は言う通りにする事にした。それから机の中を調べ始める篠原さんだったが、しばらくして突然手を止める。そして鬼のような形相でこちらを振り向いたかと思えば、私の顔を思いっきりビンタしてきた。

 ビンタされた衝撃で床に倒れ込む私だったが、状況が全く理解できず固まってしまう。私はなぜビンタされたのだろうか。じんじんと痛む頬を押さえながらそう考える私だったが、すぐにビンタされた理由を知る事になる。


「あんたの机から出てきたって事は、やっぱり盗んでたんじゃない。ふざけるな、この嘘つき女」


 なんと私の机の中から篠原さんが大切にしていたキーホルダーが出てきたのだ。どういう経緯で私の机の中に入ったのかは分からないが、これでは私が犯人にしか見えない。


「うわ。ガイジン、マジ最低だわ」


「やっぱり見た目がヤンキーな奴は中身もヤンキーなんだな」


「俺は最初からあいつが怪しいと思ってた」


 その様子を見ていたクラスメイト達は一斉に私の悪口を言い始めた。私が頬を押さえながら泣き出しそうな表情をしていると、アランが席から立ち上がってこちらへ向かってくる。

 こんな状況でもきっとアランは私の味方になってくれるに違いない。そう思う私だったが、アランの口からは耳を疑うような言葉が飛び出してくる。


「お姉ちゃん、早く篠原さんに謝った方がいいよ」


「……えっ」


 目の前に立つアランが何を言ったのか理解できなかった私はそう声を漏らした。いや、理解するのを脳が拒否したと言うべきだろうか。


「そうだぞ、今すぐ篠原さんに謝罪しろ」


「悪い事をしたら謝るなんて幼稚園児でも知ってる常識だろ、早く謝れよ」


 アランの言葉を聞いたクラスメイト達が私に向かって謝罪しろと言い始めたのを聞いて、弟が味方では無くなってしまった事をようやく認識した。


「アラン、どうして……」


 ショックを隠しきれない私はアランにそう問いかけたが、彼は悲しそうな顔をするだけで何も答えようとはしない。アランに裏切られたショックがあまりにも大きすぎた私は半狂乱になりながら教室を飛び出す。

 そして誰もいない体育館の裏で一人泣き始めた。しばらく座り込んで泣き続ける私だったが、涙が枯れ果ててしまったのか次第に何も出なくなる。


「私はアランに見捨てられちゃったんだ……」


 ようやく少しだけ冷静になった私は先程の事を思い出してそうつぶやいた。きっとアランは我が身可愛さで私の事を見捨てたに違いない。もし見捨てていないのであればとっくの昔に私の事を心配して追いかけてきているはずだ。


「……そっか、姉弟の絆なんて所詮はその程度でしかないんだ」


 アランの事があんなに好きだったはずなのに、今は憎悪の感情しかなかった。それを考えると私はもう二度とアランを信用する事ができなくなってしまったに違いない。

 この時の私はアランに裏切られたショックで半分壊れかかっていたわけだが、それを自覚する事になるのは当分先の話しだ。

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