第10話 私が童貞卒業させてあげようか?

「剣城君、今日は付き合ってくれて本当にありがとう」


「いえいえ、役に立てたのであれば何よりです」


 先週約束していた授業のアドバイスをするために俺は化学室で授業を受けていた。そして生徒目線の意見やアドバイスを色々としたわけだが、姫宮先生はかなり喜んでくれたのだ。

 姫宮先生は化学が好きだから化学教師になったらしいが、自分の得意分野という事もあって苦手な人がなぜつまずいてしまうのかをあまり理解できていなかった。そこで俺は授業を聞きながら化学が苦手な人がつまずきそうなポイントを指摘し、どう説明すれば理解しやすくなるかを俺なりに考えて説明したのだ。

 確かに今は学年1位の俺だが元々勉強が全くできるタイプでは無く苦労していたため、苦手な人がどこで引っ掛かりそうなのかは何となく分かっていた。俺からの指摘を姫宮先生は熱心にメモしていき、説明の仕方などを色々と工夫し始める。その結果、苦手な人にも分かりやすい説明が授業の後半には少しずつだができるようになり始めていた。


「あっ、もうこんな時間になってる……」


「本当だ、ちょっと熱中し過ぎましたね」


 腕時計を見た姫宮先生がそうつぶやいたのを聞いて俺は化学室の壁掛け時計を見たわけだが、いつの間にか19時過ぎになっている事に気付き驚いてしまう。化学室で授業を始めたのが16時半くらいだったはずなので2時間半近くも経過した事になる。


「ねえ、剣城君。この後って何か予定とかってあったりする?」


「いえ、家に帰るだけなので特に何も無いですけど」


 突然そんな事を聞かれた俺は疑問に思いながらも正直に答えた。すると姫宮先生は一瞬何かを考えたような表情になってから話し始める。


「……じゃあさ、この後先生と一緒に晩御飯食べに行かない? 今日のお礼って事で奢ってあげるからさ」


「俺は別に大丈夫ですけど、それって大丈夫なんですか?」


 生徒と教師が2人きりで食事に行っても大丈夫なのか気になった俺はそう尋ねた。すると姫宮先生は悪戯っぽく微笑みながら口を開く。


「プライベートで食事に行く事自体は禁止されてないはずだから多分大丈夫だと思う、私達が男女逆なら問題な気はするけどね。それとも剣城君は私と行くのは嫌?」


「いえ、全然嫌じゃないです。勿論行きます」


 姫宮先生が大丈夫と言うなら問題無いと判断し、俺はついて行く事を決めた。美人な姫宮先生と一緒に食事へ行く事は悪い気がしないため、ちょっと嬉しい。


「ありがとう、じゃあ私は職員室に戻って用事だけ済ませてくるから靴箱で待ってて。多分すぐに行けると思うから」


「分かりました」


 それから一旦姫宮先生と別れた俺は靴箱に向かって歩き始める。窓の外はすっかり暗くなっており、夜の訪れを感じさせられた。靴箱についた俺は姫宮先生を待ちながら世界史Bの単語帳を眺めていたわけだが、どこからから視線を感じて思わず顔をあげる。


「……気のせいだったのかな」


 キョロキョロと辺りを見渡す俺だったが、俺に視線を送ってきていそうな人物は特に見当たらなかった。もしかしたら部活終わりの誰かが通りすがりにたまたま俺の事を一瞬見てきただけかもしれない。そんな事を考えていると姫宮先生が靴箱にやってきた。


「剣城君、お待たせ。とりあえず私の車まで一緒に行こうか、どこに行くかとかは車の中で話そう」


「はい、よろしくお願いします」


 俺は姫宮先生の後について車まで移動を始める。そんな様子を遠くからじっと見つめている青い瞳の視線に、俺はこの時気付いていなかった。





◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





「姫宮先生大丈夫ですか!?」


「多分大丈夫だとは思うけど、車どうしよ……」


 行きたい場所を2人で色々と話し合った結果、姫宮先生オススメのレストランに来た俺達だったが、そこで大きな問題が起こっていた。烏龍茶を注文した姫宮先生だったが店員が間違えてウーロンハイをテーブルに運んできた挙句、気付かないまま一気に飲み干してしまったのだ。

  幸いな事に姫宮先生の意識ははっきりとしているが、飲酒運転になるため車が運転できなくなってしまった。するとすぐに店の奥から慌てた様子の店長が飛び出してきて俺達に謝罪を始める。

 今回の料理代は全てただにするという事と車は駐車場に置きっぱなしで問題ない事、タクシー代も全額払う事を約束してくれた。

 その言葉を聞いて一安心する俺達だったが、しばらくしてから新たな問題が発生する。なんと姫宮先生が完全に酔っ払ってしまったのだ。

 最初は普通に楽しく会話していた俺達だったのだが、徐々に姫宮先生の様子がおかしくなり始めたため酔っていると判断した。


「……その時私の元彼、なんて言ったと思う? ゴム無しでやってできたら堕ろせばいいって言ったのよ、ちょっと信じられないでしょ」


「そ、そうですね」


 今は昔の元彼の話を永遠と繰り返しており、この話を聞くのも3回目となっている。ショックだったのは姫宮先生が処女では無いと知ってしまった事だ。これだけ美人な姫宮先生だからそんな予感はしていたが、実際に本人の口から聞くとかなりのショックを受けた。

 エレンのようにめちゃくちゃ美人にも関わらず彼氏が一度もできたことない方が珍しいとは分かっていてもつらいものはつらい。だがそれと同時に姫宮先生の性経験の話を聞いてめちゃくちゃ興奮させられたのも事実だ。だから俺の下半身が元気になってしまうのも仕方が無いだろう。


「あっ、剣城君。私の話を聞いて興奮してるでしょ?」


「し、してないですよ」


 慌てて誤魔化す俺だったが姫宮先生の視線は勃起している俺の下半身に釘付けなためバレバレだった。姫宮先生は妖艶な笑みを浮かべるととんでもない事を言い始める。


「……剣城君ってまだ童貞だよね。私が童貞卒業させてあげようか?」


「ち、ちょっと姫宮先生。冗談はよしてくださいよ」


「冗談じゃないよ、実は剣城君の事は結構好みだから特別にエッチさせてあげてもいいよ。確かこの辺にラブホあったはずだし」


 その言葉を聞いて俺の心は激しく揺れ動く。前付き合っていた彼女とはエッチする前に別れてしまったため俺はまだ童貞なのだ。姫宮先生のような美人で童貞が卒業できるなら正直泣いて喜ぶレベルと言えるだろう。

 俺の理性が限界を迎えそうになった瞬間、近くのテーブルから何かが折れるような鈍い音が聞こえてくる。その音を聞いて冷静さを取り戻した俺は姫宮先生からの誘いを断ろうとするわけだか、彼女はいつの間にか机に突っ伏して眠っていた。

 そんな姫宮先生の姿を見て安心するいる一方で童貞卒業のチャンスを逃して残念な気持ちになった事は言うまでもない。

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