姫宮千花編
第9話 来週の放課後でどこか時間取れそうな日とかってない?
定期テストが終了してから今日でちょうど1ヶ月だ。水瀬さんの件で心に大きな傷を負った俺だったが、エレンのおかげでだいぶ立ち直りつつあった。
エレンがいなければこんなに早く立ち直る事は難しかったと言えるため、彼女には感謝しかない。その後は特に変わった出来事などは何も無く、いつも通りの日常を過ごしている。
「じゃあ皆んな、進路希望調査表票を忘れずに出してから帰ってね」
帰る前のホームルームで姫宮先生がそんな事を話しているのを聞いて、今日が提出日だった事を思い出した。まあ俺はとうの昔に書き終えていたため、後は姫宮先生に提出するだけで良いわけだが。
ホームルームが終わった後、俺は進路希望調査票を教卓の上に置きに行く。皆んな次々に教卓の上に置き始めるわけだが、机から立ち上がらないクラスメイトも何人かいた。
「……あいつら絶対書き忘れてたよな」
どうやら今日が提出日にも関わらずまだ書いていない不届な輩が一部いるらしい。今日は日直の当番であり、進路希望調査票を職員室にある姫宮先生の机のまで持っていかなければならないため、早く帰りたい俺からすれば中身を書いていない一部のクラスメイトの存在はめちゃくちゃ迷惑だ。
とりあえず靴箱に行った俺は待っていたエレンに今日は遅くなりそうだから先に帰って大丈夫と伝え、教室に戻ってからは授業の予習をやり始めた。20分ほど待ったところで全員が提出したため、俺は職員室に進路希望調査票を出しに向かい始める。
「姫宮先生、進路希望調査票を持ってきました」
「そっか、今日の日直は剣城君だったね。ありがとう、とりあえずその辺に置いておいて」
「分かりました」
俺は指示された通り机の上に進路希望調査票の束を置いた。そして職員室から出ようとしていると姫宮先生に話しかけられる。
「この間の定期テストもまた1位だったみたいだね。私の作った化学基礎のテストも満点だったし、本当凄いよ」
「ありがとうございます。一応一生懸命勉強してますから」
褒められた俺は少し照れつつもそう話した。何か1つでもいいからアランに勝ちたいと思って始めた勉強だったが、今ではアイデンティティにまでなっている。
「職員室でも剣城君の事がこの前話題になってたよ。本当に優秀な生徒がいるって」
「そこまで言っていただけるとめちゃくちゃ嬉しいです」
「私も担任として本当誇らしいし、自慢の生徒だと思ってるから」
姫宮先生の話を聞いた俺は顔がニヤけそうになるのを我慢しながらそう答えた。姫宮先生もまるで自分の事のように喜んでくれているため、それが本当に嬉しい。
「あっ、そうだ。来週の放課後でどこか時間取れそうな日とかってない?」
「何曜日でも時間は作れそうですけど、どうしたんですか?」
「学年1位の剣城君に授業のアドバイスをして欲しいんだよね。実は情けない事なんだけど私の授業が分かりにくいって意見が少なからず寄せられててさ……」
姫宮先生はさっきまでの嬉しそうな表情とは一転し、深刻そうな顔でそんな事を話し始めた。言われてみれば確かに他の先生と比べて姫宮先生の授業は分かりにくいかもしれない。ただ姫宮先生はまだ大学を卒業して半年も経っていないわけだし、授業が下手なのは仕方がないとは言える。
「俺で良ければ勿論協力しますよ。部活もバイトも無いので放課後は基本的に時間がありますし」
「剣城君、ありがとう。めちゃくちゃ悩んでたから本当に助かる」
俺の言葉を聞いた姫宮先生は笑顔になってそう答えた。そんな綺麗な笑顔に俺はつい見惚れそうになってしまう。間近で見る姫宮先生の顔は本当に美人であり、思わず顔が赤くなってしまいそうなほどだ。
「じゃあとりあえず来週の月曜日でお願いするね。放課後3階の化学室で待ってるから化学基礎の教科書と問題集、ノートを持ってきてね」
「分かりました、よろしくお願いします」
来週の月曜日の放課後は姫宮先生との予定が入ったため忘れないようにしなければならない。そんな事を思いながら職員室を出た俺は教室に戻る。そして荷物を持った俺は帰るために靴箱へと向かうわけだが、そこに見覚えのある人影が目に飛び込んできてかなり驚いてしまう。
「あっ、快斗君やっと来た。待ってたよ」
「エレン、まだ帰って無かったのか」
放課後になってから既に30分以上が経過したわけだが、なんとエレンは俺の事を待ち続けていた。先に帰って大丈夫と伝えていたはずだが、どうしても俺と一緒に帰りたかったかららしくわざわざ待っていたらしい。
それから俺とエレンは2人並んでいつものように帰り始めるわけだが、彼女は開口一番に遅くなった理由を尋ねてきた。特に隠すような理由も無かったため、俺は答える事にする。
「今日って進路希望調査票の提出日だっただろ? 日直だったから全員分集めて職員室に持っていかないと行けなかったんだけど、書いてない奴が何人かいてさ。それで時間がかかったんだよ」
「なるほど、私のクラスにも慌てて書いてる人いた気がする」
「やっぱりどこのクラスにも同じような奴がいるんだな」
そんな話をしながら帰る俺達だったが、来週の月曜日は姫宮先生との約束が入ったから一緒に帰れないかもしれないと話した時に、ほんの一瞬だけエレンが無表情になった姿が頭から離れそうに無かった。
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