第2話 それは勿論快斗君が身も心も私の物になるまでよ

「それで、報告は?」


「ちゃんと姉さんの言う通り快斗の気になってた女の子は俺が先回りして押さえておいたよ」


 放課後の誰もいない教室で、私は弟のアランから今回の報告を聞いていた。快斗君の気になっていた女をアランに奪わせたのは全部私の仕業である。今まで幾度となく快斗君が好きになったり気になっていた女の子をアランに奪わせてきたのだ。そして落ち込んでいる快斗君を私が癒してあげるというのが一連の流れになっている。


「そう、じゃあもうあなたに用は無いからさっさと私の視界から消えなさい」


 報告を聞き終わった私はアランに教室から今すぐ出ていくよう命令をした。私はアランの事が心の底から大嫌いであり、本当は同じ空間にいる事も声を聞く事すらも不快なのだ。アランが大嫌いな理由は簡単で小学生の頃いじめにあっていた私を見捨てたからである。快斗君が助けてくれなければ一体どんな事になっていたのか、正直恐ろし過ぎて想像すらしたくない。


「……ひょっとして、まさかとは思うけど何か私に言いたい事でもあるのかしら?」


 いつまで経っても教室から出て行こうとしないアランに私は冷たい声でそう問いかけた。するとアランは怯えたような表情で口を開く。


「ね、姉さんはこんな事一体いつまで続ける気? 俺は快斗が可哀想だから正直もうやりたく無いんだけど」


「いつまで続けるか? それは勿論快斗君が身も心も私の物になるまでよ」


 この愚弟は一体何を当たり前の事を聞いてきているのだろうか。快斗君は私を地獄から救ってくれた救世主であり、理想の王子様であり、暖かく照らしてくれる太陽のような存在なのだ。そんな快斗君が私だけの物になるまで続けるのは当然の事だろう。

 アランは私の障害になりそうな女を黙って快斗君の前から排除し続ければ良いのだ。そして私は深い絶望に打ちひしがれた快斗君を癒し慰め励まし続け、次第に私無しでは生きていけないようにしていく。かつての私がいじめられて絶望の淵に立たされた時に快斗君が救ってくれたのと同じように。


「……言いたい事はそれだけ? 無いなら早く出ていきなさい。ああ、それと私からのメッセージは必ず見るように」


 冷たくそう言い放つとアランは諦めたような表情で教室から出ていった。ちなみにアランにはチャットアプリを使って情報共有や監視などの指示をリアルタイムでしているため見てくれないと非常に困る。本当はこの報告もメッセージで済ませたいところなのだが、文章だけだと嘘や隠し事を見破るのが難しいため仕方なく対面でやっているのだ。非常に腹立たしい事だが、一応双子の姉弟であるため嘘などをついていれば簡単に見破れる。


「さてと、じゃあ私はいつも通り快斗君の監視を始めましょうか」


 アランを教室から追い出したのは一緒にいる事が不快という事もあるが、一番の理由は一刻も早く日課である快斗君の監視を始めたかったからだ。部活に入ってない快斗君は授業か終わったらすぐに家へと帰り始めるため私は監視を兼ねて一緒に帰っている。

 そして帰宅後は快斗君の部屋に仕掛けた監視カメラを使って様子を見ているため、彼の情報は完全に筒抜けだ。屋上でのお悩み相談や恋愛相談、監視などによって得られた情報を使って快斗君の好きな女や気になっている女を特定し、全員漏れなくアランに奪わせているというわけだ。

 私には全く良さが理解できないが、アランはめちゃくちゃモテるため基本的にどんな女でも簡単に堕とす事ができていた。だから今までの女達を快斗君から遠ざける事は非常に簡単だったと言える。

 そんな事を考えながら歩いているうちに靴箱に着いたわけだが、そこには先に着いていたらしい快斗君の姿があった。快斗君の姿を見た私は今すぐ床に押し倒してめちゃくちゃに犯したい衝動に駆られるが、ぐっと堪える。

 私の目標は快斗君の身も心も私だけの物にする事であり、ただの肉体的な繋がりだけでは駄目なのだ。そのため快斗君とそういう行為をする時は心が私だけの物になった時だと決めている。


「快斗君、お待たせ。ひょっとして待ってた?」


「いや、全然待ってないよ」


 明らかに嘘と分かる内容だったが私はそこには触れなかった。快斗君が私のために優しい嘘をついてくれたのだから、その事実だけで満足だ。それから私達は適当に雑談をしながら歩いて帰り始める。快斗君は昼の女の子の件を未だに引きずっているらしくちょっと悲しそうな表情を浮かべていたが、私としては目障りな女が消えてくれたので本当に満足だ。


「じゃあまた明日」


「うん。快斗君、またね」


 私の家の前に到着したためそこで快斗君と別れるわけだが、家に入ったふりをして今度は尾行を開始する。私と別れた後、快斗君はコンビニや本屋などへと寄り道する可能性があるため監視を続行しなければならないのだ。 出会いはどこにあるか分からないため手遅れになる前に対処をする必要がある。私の快斗君に手を出す女は絶対に許さないつもりだ。もしそんな女がいた場合は絶対に地獄の底まで突き落とす。

 どんな手を使ってでも。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る