本編

プロローグ

第1話 つらそうな顔してるけど今日はどうしたの?

 俺の高校のクラスメイトであり幼馴染でもある如月きさらぎアランはとにかく女の子からモテる。日英ハーフのアランは誰もが振り向くほどの超イケメンで、身長も180cm前後あるため平均よりかなり高い。その上成績も学内トップクラスであり、サッカー部のエースでもあるため女子からモテないはずが無かった。

 だからだろう、俺が気になったり好きになった女の子が皆んなアランの事を好きになってしまったのは。成績だけアランに勝ってはいるものの、顔や身長などは言うまでもなく圧倒的に負けているためはっきり言って勝負にすらならなかった。

 そして今日も俺がちょっと前から気になっていたクラスの女子がアランに思い切って告白しようか迷っているという話を偶然昼休みが始まった瞬間聞いてしまい、死にたいほど惨めな気分になっている。


「この世界って本当に理不尽だよな、俺がどれだけ頑張っても恋愛でアランに勝てる事なんて絶対に無いんだから」


 最初の頃は俺の好きな女の子をことごとく惚れさせるアランに対して憎悪に近い嫉妬の感情を向けたりもしていたが、最近は完全に諦めムードになりつつあった。アランを憎めば女の子が俺を好きになってくれるのであればいくらでも憎むが、残念ながら現実はそうでは無いのだ。


「……このまま教室にいても辛いだけだし、いつもの場所に行こう」


 俺は箸と弁当箱を持つと教室を出て屋上に向かい始める。好きな人がアランに惚れて悔しい思いをした時はいつも屋上に行っている。景色を見て心を落ち着かせる事も目的ではあるが、それ以外にもう一つ目的がある。


「快斗君、こんにちは。つらそうな顔してるけど今日はどうしたの?」


「聞いてくれよ、気になってた女の子がまたアランの事を好きになっちゃってさ……」


 それはよく恋愛相談やお悩み相談に乗って貰っている同級生の如月きさらぎエレンに会う事だ。エレンは昼休みの時間帯を基本的に屋上で過ごしているため、ここに来れば会える。如月という苗字から分かるようにエレンはアランの双子の姉であり、俺のもう1人の幼馴染でもある存在だ。アランと同じくハーフであるエレンはヨーロッパ系の血をかなり強く受け継いでおり、金髪碧眼の日本人離れした容姿をしているため学内で一番美人と言っても過言では無い。       

 一時期は完全に疎遠になっていた俺とエレンだったが、とある事件がきっかけで再び子供の頃のように話すようになった。その事件とは高校に入学したばかりの1年前、中学3年生の時に付き合い始めた彼女がアランの事を好きになってしまい、俺が振られてしまうといった出来事である。

 初めて出来た彼女から理不尽な理由で振られてしまった俺は昼休みに屋上で静かに一人泣いていたわけだが、そんな時に声をかけて来たのがエレンだったのだ。エレンとは何年も話していなかったにも関わらず親身になって話を聞いてくれたため驚きはしたが、それと同時にかなり救われた気分にもなった。その際に困った事があればいつでも相談に乗ってあげると言われたため、こうして時々会って話しをしていて一緒にも帰っている。


「……そっか、それは辛いわね。でも元気出して、快斗君の事を好きになってくれる女の子は絶対どこかにいるはずだから」


「いつも話を聞いてくれて本当ありがとう。それとこんな話ばっかり聞いて貰って本当悪いな」


 エレンに話を聞いて貰って気持ちが楽になった俺だったが、それと同時に申し訳なさを感じたため謝罪をした。するとエレンは優しい笑顔で微笑みながら口を開く。


「昔いっぱい助けて貰った恩返しをしてるだけだし、快斗君は気にしなくていいよ」


「……あんな昔の事まだ覚えてたんだ」


 実はエレンとアランは小学生の頃めちゃくちゃいじめられていた過去がある。日本人離れした容姿が原因で悪口を言われたり無視されたりしていたのだ。アランの場合は自分で反撃していたため問題なかったが、何も抵抗出来なかったエレンは一歩的にやられっぱなしだった。

 そんな状況を子供心ながら見過ごす事が出来なかった俺はエレンを励ましつつ、彼女をいじめていた奴らと撤退的に戦う事を決める。悪口には悪口で応戦し、時には殴り合いに発展する事もあったがそれでも俺は一歩も引かず戦い続けたのだ。

 結局いじめ自体を無くす事は残念ながら出来なかったが、大幅に減らす事はできた。いじめによって毎日暗い顔をしていて不登校一歩手前だったエレンも徐々に明るさを取り戻し、元気に学校へ来るようになったため俺の行動は大成功だったと言っても過言では無い。そして中学生になっても続くと思われていたいじめだったがぱったり途絶える事になる。

 理由は簡単でエレンが男子達からめちゃくちゃモテるようになったからだ。それまでいじめていた奴らも急に手のひらを返したようにエレンに対して優しくなり、それだけでは飽き足りず告白する奴まで現れ始めたため呆れてしまった事は今でも思い出せる。

 クラスでも陽キャだらけの上位カーストに所属するようになったエレンはだんだん俺の手の届かない存在になっていった。その頃からエレンとはだんだん疎遠になっていきほとんど話さなくなったため、こうしてまた話すようになるとは夢にも思ってもいなかったというのが本音だ。


「って、もうこんな時間になってるじゃん。話を聞いてくれてありがとう」


「どういたしまして。またね、快斗君」


 次の時間が体育である事を思い出した俺は、エレンに別れを告げ急いで教室に戻るのだった。

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