第2章 夏休み

第2章 第1話 夏休み


 ――――――――――――――――――――

 「こっちこっちー」


 何歳ぐらいだろうか。小学生低学年ぐらいの俺、海原雄志が手招きをしている。


 「まってよー」


 今度は女の子の声が後ろから聞こえる。

 振り返ると、男の子と同じぐらいの年齢の女の子が走ってきた。

 最近も感じたことのある雰囲気だが誰か思い出せない。


 「ゆうくん速いよ」

 「君が遅いんだよー」


 またあの子の夢か……。

 高校生になってこの夢をよく見るようになった。

 いや、夢というか思い出か。

 俺が遥と仲良くなる前に出会った女の子との思い出。

 たった1ヶ月だったけど楽しかった、遥と出会うまでたった1つの思い出。

 何回みても名前は思い出せない。もしかしたら名前を知らなかったのかもしれない。

 けどこれだけは思い出せる。

 俺の初恋の人。

 俺が今までの人生で「好きだ」とはっきり言える人。


 「ねえ、ゆうくん」

 

 女の子が小さな俺に話しかけた。


 「なに?」

 「ゆうくんかっこいいね」

 「よく言われる」


 なに言ってんだ小さい俺。ぶっ飛ばすぞ。


 「君もかわいい……と思う」

 「そっか。そっかそっか……ありがと。」

 「ねえ、君……。大きくなったら……」



 

 ジリジリジリジリ


 うるさいなぁ。

 アラームの聞こえるほうに手を延ばす。

 あった。スマホの画面を適当に押してアラームを止める。

 

 あれ?

 なにか夢をみていた気がする。

 なんだったか。とても大事な思い出のような。

 思い出せそうなのに思い出せない。

 すこし胸が痛い。ぎゅっとなるような。

 まあ、いいか。

 そんなことより夏休み初日、今日は生徒会の集まりだ。

 体育祭と文化祭の会議とからしい。


 トントン


 「雄志起きた?」

 「うん。起きたよ。ありがと」


 幼馴染の遥が下で朝ごはんを作ってくれている。

 一人暮らしの俺を心配して遥のご両親と遥がうちにきてくれる。

 

 「ごはんできそうだから早めに下に来てね」

 「うん、ありがと。すぐ行く」


 そういって動き出した俺は夢のことをもう忘れていた。


 ――――――――――――――

 「おはー、風香」「おはよう、風香ちゃん」

 「お、おはよう。紗季ちゃん、良太君」


 夏休み初日の朝9時50分。

 私、松原風香は学校にいた。


 「夏休み初日から練習なんてきつすぎな」

 「だよね」

 「今日紗季起こすのに電話何回かけたことか」


 良太君がため息をついた。


 「だって休みだからアラーム切ってたもん」

 「まあ、気持ちはわかるけど」

 「風香ちゃんは朝強い?」

 「私?私は苦手ではないかな……」

 「まじ?すげーな」

 「紗季も見習ってくれ」

 「無理」


 紗季ちゃんってすごくかわいいのにしゃべると面白いのすごいなぁ。

 私話すの苦手だし……。


 「おはよう」


 後ろから聞きなれない男の人の声がして振り返る。

 団長……?

 昨日前で話してた人だ。

 上級生の間では人気があるって風のうわさで聞いたことがある。


 「「お、おはようございます」」 「ども」

 「応援団に所属してくれてありがとう」

 「い、いえ……」


 なんで私たちにだけ挨拶?


 「三木君と篠原さんと松原さんでよかったかな?」

 「え、は、はい」

 「団長ですよね。なんで私らの名前知ってるんですか」

 「団長として名前は覚えておくべきじゃない?」

 「ま、まぁ」

 「団長、そろそろお時間なのでは?」


 良太君の言葉がいつもより冷たい。


 「そうだね。じゃあ、3人ともこれからよろしく」

 「よ、よろしくお願いします」


 私だけが頭を下げる。

 紗季ちゃんと良太君は団長の背中を見ているだけ。


 「えっと、ふたりともどうしたの?」

 「いや、なんか私あいつあんま好きじゃない」

 「僕も」

 「そ、そっか」


 私にはなんにも感じなかったけど……。

 そんな疑問を残して初日の練習は終了した。






 


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

イケメンなのに陰キャすぎて幼馴染としか喋れません @himenoaki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ