第1章 第32話 これでいい と これがいい

 「もう寝たふりしなくていいんじゃない?」


 風香ちゃんたちが教室から出たのを見計らって私、新見遥が机にうつぶせている幼馴染に声をかけた。


 「おはよう、遥」

 「以外にすんなり起きるんだ。寝たふり続けるのかと思ったよ」

 「ばれてる人にしても仕方ないでしょ」


 まあ、たしかに。といって雄志のよこのいすに座る。


 「どうする?暇だよ」

 「暇だね」


 風香ちゃんたちは応援団だし大輝君はバスケ部、クラスのほかの人も気が付いたらいなくなっていた。


 「なんか嘘みたいだね」

 「だな」

 「ちょっと前まで学校で雄志とこんな風になれるなんておもわなかったよ」

 「俺も。ありがとうな」

 「こちらこそありがと」


 普段の私は優等生の新見遥。

 優等生の私が嫌いなわけじゃない。

 でも、ずっとこうやって「私」で居れるときのほうがずっと楽しい。ふつうの女の子で居れる気がして。


 「ねえ、雄志?」

 「ん?」

 「どんな水着が好き?」

 「は!?」


 雄志急に顔が赤くなってるのかわいいとこあんじゃん。

 あたふたと天井と私を目線でシャトルランしてるのばれてるからね?

 

 「今度みんなで海くじゃん?だからどんなの好きかなって」

 「し、しらねえよ。アニメでしか見たことないもん」

 「じゃあ、こんなのは?」


 私のスマホを雄志の顔に近づける。


 「お、おい!?さすがに……無理だろ」

 「雄志かわいいじゃん」


 ぷぷっと笑いながらもうすこし過激な写真を探す。

 あ!このお姉さんのやつとか!ちょっとえっちだ。


 「雄志これは?」

 「え、これは無理じゃね?だって遥これ、結構そ、その胸……」


 私は下を見る。

 ストン

 ない。いや、あるんだよ?あるけど平均よりちょっと小さいぐらい?

 なんか腹立ってきたもん。


 「雄志君?正座」

 「は、はい……」


 雄志は素直にしたがって固いフローリングに正座する。

 ちょっとかわいそうだけどおもしいからそのままでいてもらおっと。

 犬みたいでかわいいし。



 ガラガラ――――


 扉が開くと紗季ちゃんたちが帰ってきた。

 

「おかえりー」「おかえりなさい」

「「「「ただいまー」」」」

「あれ、大輝君も一緒なんだ」

「おう。さっきそこであってな。というかさ、なんで雄志正座してんの?」

「女の子を侮辱したからだよ」

「うわ、海原最低」「雄志君……」


 紗季ちゃんと風香ちゃんから辛辣な言葉が漏れる。


「何したの、雄志君」

「良太君、大輝君いいんだ。俺が悪い」

「お、おうそうか」


 結構反省してるの雄志やっぱ優しいじゃん。だいぶ私理不尽だったのに。


「反省してるのわかったからもう許してあげる。それより帰る準備しよ!」

「「「「「はーい」」」」」

「カラオケだー!!」


 雄志と二人の時間。

 もっとほしい。生徒会とかそんなんじゃなくて。

 でも、今はこれでいい。


 ――――――――――――


 「うたったーーーー!!!!」

 「大輝うるさい。でもだいぶうたったな」

 「だろー紗季。風香は?」

 「え、う、うん!たくさんうたったね」


 カラオケをでてすこしぼーっとしていたからかびっくりした。

 私、松原風香は薄暗い夜空をみながらみていた。


 「もうこんな時間じゃん!良太、次の電車何時」

 「しらないよ、自分で調べてください」

 「えー、まあ電車なんていつか来るか~」

 

 そんな3人の声を聴きながらふふっと笑みがこぼれる。


 「雄志もう帰る?」


 雄志君をはさんで遥ちゃんがふわっと話し出した。

 

 「いや、俺は買い物」

 「そっか。私もついていっていい?」

 「いいよ。風香は?」

 「私も、おうちの人に頼まれてたの買いたい!」


 とっさに嘘をつく。


 「そっか。なら3人で行こう。紗季、良太、大輝、俺たちスーパー行くからじゃあな」

 「おそっか!じゃあな!よい夏休みを!」

 「海とかの予定決めはNineでしよう!じゃあねー」


 私も気になっていたことを良太君がしっかりと言ってくれた。

 しっかりとしてる。


 「じゃあな!海原、風香と遥にへんなことすんなよ?」


 ふぇ!?

 

 「し、しねーよ」


 私と同じようにびっくりした顔で雄志君が大きめのリアクションを取った。

 遥ちゃんはくつくつと笑っている。


 「じゃあな。また」

 「じゃあね」「バイバイ」


 雄志君に続いて私と遥ちゃんが手を振る。

 紗季ちゃんたちが遠く離れて小さくなったこと私たちも歩きはじめた。


 「あ、風香スーパーで大丈夫?」

 「う、うん!」

 「風香ちゃん料理するの?」

 「すこしだけ……」


 まえ、遥ちゃん料理するって言ってたしここは控えめにいっておこうかな。

 いつか作るときたくさん驚いてほしいし……。

 


 「いっぱい買ったね、雄志も風香ちゃんも」

 「風香重くない?持たせてよ」

 「ううん、大丈夫。そんなに非力じゃないよ」

 「そう?でも重くなったら言ってね」

 「うん。ありがとう。遥ちゃんも付き合ってくれてありがと」

 「全然いいよ。一人で帰るの寂しいし」

 「ぼっちさみしいもんな」

 「なんだと雄志コラ」

 「雄志君そんなこと言わないの」


 高校生3人の笑い声が田舎に響く。

 ふと空を見上げると、薄暗いと思っていた空はすでに暗くなっていた。

 雄志君と話すようになって紗季ちゃんたちに助けてもらって、遥ちゃんとも話せるようになった。

 ついちょっとまえの自分に教えてあげたい。こんなに楽しいよって。こんなに夜は明るいよって。

 家に帰るまでは一人じゃない。

 さっきついた嘘だって今なら言えるかもしれない。

 でも、

 怖い。

 見放されるのが。あの時みたいに。

 

 「風香?」「風香ちゃん?」

 「あ、ご、ごめん」

 「何かあった?」

 「このバカが何かした?」

 「ううん!ぼーっとしてただけ!ありがとう」

 

 優しい。二人とも。

 優しい、優しいから今を壊したくない。0.01%でも今が壊れる可能性があるなら嫌。

 夏の蒸し暑い空気にとどまり続けるように私は願った。


 私は今がいい。

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