第1章 第30話 「いつもよりは」
「え、なんで海原君が?」
「噂には聞いてたけど本当だったんだ」
「今期の生徒会最強じゃん……」
ステージの下にいる生徒がざわざわしているのが分かる。
「でも1年生新しい人入れなくない?」
「確かに。新見さんと海原君の二人に挟まれるとか無理」
「しかも最近篠原さんたちとも仲いいらしいよ。松原さんとも」
「がち?最強じゃん。海原君も松原さんも私らとは喋らないくせにね」
「ね」
いや、一番前の女の子たち?話声聞こえてるからね?
俺は今終業式の生徒会長の話という時間でステージ上に上っている。
生徒会に俺が入って初めての公式の場でめっちゃ緊張して手も足もガクブル状態だ。
「以上で生徒会活動報告を終わります。次に夏休み中の注意喚起ですが……」
望先輩はさすがに慣れている。昨日のとは違う。
「今日は月がきれいだよ、雄志君」
昨夜の月とスマホ越しに聞こえた望先輩の声がまだ耳に残ってる。
今話している先輩の声は生徒会長としての声。でも昨日話していた声は望先輩としての声だった。優しくて守りたくなるような女の子の声。
もう一度聞くために、もっと頼ってもらえるような生徒会のメンバーにならなければ。
「最後になりますが生徒会新メンバーを紹介いたします」
え?
「生徒会新メンバーの1年生海原雄志君です。一言お願いします」
望先輩はニコッと笑って俺を手招きする。
いや、無理だよ?俺こういうの無理だよ?
遥たすけ……遥さん?笑い殺し切れてませんよ?
震える足を手で押さえながらなんとか立っての望先輩のもとに向かう。
「ご紹介にあずかりました、先日生徒会に加入しました海原雄志です。生徒会メンバーに恥じない行動をし、みなさんの学生生活がよりよくなることを目標に活動してまいります。よろしくお願いします」
どこかのサイトのコピペのような挨拶にもかかわらずたくさんの拍手をしてくれる。特に女子から。
「海原君、ありがとうございます。生徒会からは以上です。ありがとうございました」
望先輩が生徒、教師に一礼をして降壇する。
俺たちもそれに続いていると、前に座っている女子たちを目が合った。
恥ずかしいし気まずい。
しかも体育座りしてるからスカートの中も見えちゃうんですけど……。
下着は見えなくてもその健康的な太ももだけでその辺の男子高校生なら立てませんよ!?いや、たってはいるんですけど……。
1週間は使わせてもらうので目にしっかりと焼き付けとこう。
「今、うちらのほう見てなかった?」
「え、見てたよね。目があったもん」
「今度話しかけてみる?」
「そうしよ」
えっと、絶対に話しかけないでください?多分なにも話せれませんよ。
いや、でもいいもの見せてもらったので頑張って話してみようかな。
ステージを降壇してふわっと望先輩が振り返ると、
「お疲れ様。雄志君急でしたがありがとうございます」
と会長の笑顔を崩さず言ったので俺も、
「いえ、大丈夫です」
といい、生徒会用に用意されているパイプ椅子に座った。
「えっち」
「は?」
隣に座った遥がぼそっといった。
さっき俺が女子を見てたの気が付いてたのか。
「みてたじゃん」
「男ってのはそういう生き物だ」
「私が雄志の家にいても何もしないのに?」
「それは……」
それは遥を裏切りたくないからに決まってる。
同級生の幼馴染が家に居てなんにも思わないわけないし、しかも遥はひいき目なしにかわいい。
「遥だからかな」
「私色気ないの?」
「いや、そういうわけじゃ」
「別にいいし」
こういう時どうしたらいいん?
どういってもダメじゃん。
「裏切りたくないだけ」
「なにを?」
「信用してくれてるのを」
「じゃあ、家に私いたら何か思うの?」
「思わないわけないじゃん」
「そっか。そっかそっか」
落ち着いた声のその裏で笑顔になっているのが分かる。
次から遥を家に呼ぶときどうしたらいいんだよ。さらに意識しちゃうじゃん……。
「ねえ、雄志」
「なに?」
「明日から夏休みだね」
「だな」
「夏、あついかな」
「暑いだろな」
「楽しいかな」
「いつもよりは」
「楽しもうね」
「お互いにな」
遥といつも通りの会話がいつもどおりの会話ではない。
「いつもよりは」
やっと歩き始めた高校生活を表すには十分な言葉だった。
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