第1章 第27話 「ばか」

 夏休みまで今日が最後の生徒会活動日ということで生徒会メンバーはあわただしく動いていた。

 まだ生徒会活動に慣れてない俺、海原雄志は望先輩や渚先輩、遥の手伝いをしている。


 「もうそろそろ帰る準備に取り掛かりましょう」


 先生との話会いから返ってきた望先輩の声にはっとして外を見るとすでに太陽は沈んでいた。


 19:15


 いつもより早いが明日は朝早めに来て終業式の準備から先輩の気づかいだろう。


 「はい。了解です」


 ちょうど望先輩に頼まれていた資料が終わったので片づけを始める。


 「あれ、望と遥ちゃんは?」

 「望先輩は資料を取りに、職員室に遥はたぶん部活回ってます」

 「了解。じゃあ、一緒に片づけするよ」


 うちの学校はそこそこ大きく、職員室がたくさんあるので一概に先生のとこに行くといってもちがう職員室に行くことが多々ある。


 「そういえばさ雄志君ってSNSとかやってますか?」

 「Nine以外にですか?」

 「うん」


 一応青い鳥のやつはやってるけどあれ完全にオタク垢だからなぁ。

 いや、そういえば最近キンスタグラムとかいうやつ始めたんだっけ。遥とか風香だけつながってるけど全然開いてないな。


 「最近キンスタを始めました」

 「え?本当?もしよかったら交換しませんか?」

 「はい。大丈夫ですよ」


 意外に望先輩もやってるんだ。

 そういえば前に遥が高校生でやってない人なんていないとかいってた気もするな。

 QRコードを見せて先輩と交換する。

 そういえばこのストーリとかいうやつほとんど見てないな。

 あ、紗季のアカウントが表示されてる。押してみるか。


 「わっおいしそう」

 「おいしそうですね」


 望先輩が覗き込んでくる。

 うわっ、いいにおい。

 シャンプー?なんだろう。けどすごくい匂い。


 「シュークリームお好きですか?」

 「はい。甘いものは好きです」


 スマホの右側をタップすると次の写真が現れた。

 紗季と良太と風香が写っている。すごく楽しそう。

 よかった。風香が楽しそうで。


 「望先輩は甘いものお好きですか?」

 「私ですか?そうですね。好きです」

 「同じですね」

 

 俺がそう言うと先輩は一瞬目をぱちくりさせた後、いつもの優しい顔に戻って


 「同じですね」


 と言った。


 ガラガラ

 

 明るい声と明るい髪を揺らしながら望先輩が戻ってきた。

 

 「おつかれ~、あれ遥ちゃんまだ帰ってきてない?」

 「あ、渚先輩お疲れ様です。そうですねまだです」

 「そっか。もう帰る準備してる感じ?」

 「そうですね。資料完成しました」


 俺は言われていた資料を渚先輩に見せるとうんうんと確認したあと、


 「よくできたね~。えらいえらい。よしよし~」


 と頭をなでられた。これ見たことあるそ、ラノベや漫画ならそのふくよかな胸に押しつぶされるやつ。まあ現実はそんな甘くないか……。

 でも頭をなでられただけで最高です。


 「あ、ありがとうございます」

 「渚!何してるんですか!」

 「え~望怒んないでよ~。頑張ったご褒美だし?しかも学校一のモテ男をよしよしできるんだよ?」

 「モテてないです……」

 「望もやる?」


 俺の話聞いてないな……。まあ、うれしいけど。


 「やりません!」


 ガラガラ


「「「「あっ」」」」


 生徒会室にいた3人とドアをあけた遥の声が重なる。


 「ち、ちがうんだ遥。そ、その」


 頭をフル回転するがそもそもよしよしさせてショート中なのでなにも出てこない。

 渚先輩はいつもの明るいキャラを忘れてあたふたして望先輩はフリーズしてる。

 

 「楽しそうですね」


 一撃で俺たちを沈めるように冷たくいい放ち遥はまたどっか行ってしまった。


 

 遥を探して納得してくれる説明をやっとできたのはそれから20分後のことだった。

 俺はその後遥と夜の帰り道をゆっくりと歩いていた。


 「遥さっき先輩たちをからかってただろ」

 「だっておもしろくて」

 「優等生がなにやってんだか」

 「優等生はもう疲れた」

 「そっか」


 そうだよな。

 俺たちと話し始めるまで遥にはたくさんの同級生がいた。

 でもそいつらは新見遥ではなくて「優等生」だったり「美少女」という外見しか見ていない。

 もしそれがそろっているのなら新見遥ではなくてもいいんだと思う。

 それに遥は気づいていながら気づかないふりをしていた。正直かなりしんどいと思う。

 俺はそれが怖くて逃げてた。独りでいるほうが楽だから。

 遥に背負わせてしまってたんだと思う。


 「遥、ありがとな」

 「ううん。大丈夫」

 

 ポンポン


 俺の手は気が付いたら遥の頭の上にあった。

 遥はうつむいたまま何も言わない。

 そのまま遥の小さな頭をなでる。

 何も言ってこないから嫌ではないんだと思う。暗くて顔はよく見えない。

 ふわりとすごくいいにおいがする。今日の渚先輩とも違う。

 なにかわからないけど落ち着くけどドキドキするかおり。

 かわいい。ただひたすらにかわいい。

 でもさすがにそろそろ離さないと怒られそう。

 俺は手をそっと頭から離す。


 「ばか」


 たった一言そう呟いて暗い夜道に消えていった。

 

 かわいすぎだろぉぉぉぉぉぉ。










 

 







 

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