第1章 第26話 もう誰かが居なくなるのは怖い
「どっか寄って帰らね?」
「そうしよう。風香ちゃんはどこか行きたいところある?」
「えーっと、わかんないけど甘いものとかがたべたいかも」
1か月前、私はこんな景色を想像しただろうか。
学校でも有名な女の子とその幼馴染の男の子と地味な私が3人で下校する。
隣の席の男の子と仲良くなれればな、なんて考えていた私にとって今の状況は泣いて喜ぶ、いや夢のような場所のはず。
なのになんで……素直に今を楽しめないのだろう。
「良太~どこ行く?」
「うーん甘いものでしょ?ならスイーツとか?」
「あ!シュークリームとか好き?」
「あ、え、うん。好きだよ」
「ならあそこいこーぜ。良太道覚えてる?」
「んーっとなんとなくだからスマホで調べるよ」
「頼んだ」
まさか友達になんてなれると思わなかった人たちが私のために動いてくれているのに。
どうして今いる人より今いない人を考えてしまうのだろう。
雄志君と初めてスーパーであったときすごくうれしくて学校で助けてくたときもただ話してるだけでもうれしかったのに楽しかったのに。
わがままなのかな私。
雄志君が遥ちゃんと仲良くするのは自由だし私も遥ちゃんとは仲良くしたい。
でも嫌なんだもん。せっかく仲良くなれたのに離れて行っちゃいそうで。
「風香……?なんかあったか?」
「なんにもないよ」
心配してくれている紗季ちゃんと良太君に笑顔で答える。
ごめんね、二人とも。
まだ笑顔を捨てきれないや。
すこし雑談をしながら歩くとかわいい民家のようなお店が見えてきた。
「着いた~。ここだな」
「久しぶりやんな。前大輝と3人で来たぶり?」
「だね」
「す、すごいかわいい」
「風香ちゃんはこういうところあんま来ない?」
「あんまり来ないかも……」
一緒に来る人がいないし一人では入りにくいからなんだけどね。
「ならこれからは私らとたくさん行こう?」
「え?」
「え、だめ?だって帰宅部暇じゃん」
「ううん!一緒に行きたい!」
店内に入るとシンプルな白を基調とした空間でおしゃれなスイーツ屋さんって感じ。
高校生がくるってよりOLさんとか大学生が来そうな気もする。
ソファの席に案内されて私と紗季ちゃん、反対に良太君が座る。
「ここのシュークリームはマジうまいからおすすめ」
「そうなんだ。ならそれにしようかな」
「僕も同じのにしよう。紗季はどうする?」
「私も同じで良いかな」
テキパキと良太君が仕切って注文してくれる。たしかに大輝君と紗季ちゃんの3人なら良太君がお世話係になりそう。
「ねえ、遥ちゃんと雄志ってどんな関係なん?僕気になってて」
「え?」
「ほら、雄志って遥ちゃんと話すときだけ違うじゃん?」
「あーそれは私もわかるかも」
良太君すごいね……。
さすがに1日中いればわかるよね。良太君も紗季ちゃんもそういうの察すの得意そうだし。
でもまだ真実は言えないかな。
もちろん二人を信用してないとかじゃない。ただ私が言いたくないだけ。
私は雄志君と幼馴染で居たいから。
もう誰かが居なくなるのは怖い。
「昔からの付き合いって前聞いたかな?ごめん詳しいことはわかんないや」
「ふーん。そっか」
「あ、僕から紗季と風香ちゃんに1つ」
「なんだ?」「なに?」
「しんどい時は俺や大輝、雄志、遥ちゃんがいるからね。何かあっても何もなくても相談してね」
良太君……。
一瞬驚いた顔をした紗季ちゃんはレモンティーを一口飲んで、
「ありがと、
「うん」
紗季ちゃんも何かあったのかもしれない。
まだたぶん私のはその「何か」はわからない。でももし話してくれる時が来たらその時は横で聞きたい。
私の気持ちを誰かに話すのはまだ難しいけど今横にいる二人の友達に対して、
「ありがとう」
いつか話すときまで待っててね。
――――――――――
キュッ、キュッ、スパッ
バッシュが鳴らす音とバスケットボールが網に触れる音、たれ落ちる汗をシャツに含ませる。
部活をしたことのある誰もが感じる楽しさと辛さをかみしめながら俺たちは放課後のほとんどをここで過ごす。
女子と関わることが少ない部活でマネージャーもいない。
でも男子だけでワイワイと部活終わりに楽しむ時間は青春だ。
小学生から始めたバスケもそこそこうまくなってそのためにたくさん努力した。
高校になってバスケでインターハイとか目指そうと思った入学式、俺はひとめぼれした。
誰もいない桜の木の下で見たこともないほどの美少女がただ一人で泣いていた。
でも、俺はなにもできなかった。
その美しい髪と美しい顔からでる涙を俺は拭けなかった。
もしあの涙を止められていたならば今、あの子は俺に振り向いてくれるのだろうか。
次は絶対にそばにいる。
やっとつかんだチャンスを無駄になんてしない。
ドン、ドン
ボールがバウンドする音が聞こえはじめる。
「大輝、練習再開だぞ」
「おう」
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