第1章 25話 振り返ればそこにいるはずなのにまだ俺は振り返れない
君が私を覚えていないのは知っているよ。
君から見たらたくさん会って話した女の子の一人でしかも約10年前の女の子なんて覚えている方がすごいよね。
一般的に裕福といわれる家に生まれお嬢様として育てられた私、宮前望は小さいころから嫉妬や羨望からいろんなことを言われた。しかもまだ周りの子も小さくて思ったことをすぐに言っちゃうから家に引きこもってしまった。
でも、そんな私に会いに来てくれてちょっと無理やりだったけど外に出してくれたのを覚えてる?
怖がって嫌がる私を毎日毎日迎えに来て正直最初は迷惑って思ったけど私を引っ張る君の手、まだ覚えているよ。
思いださないようにしてたのになんでだろうね。会っちゃったらやっぱダメだったよ。
学校で名前聞いたときうれしくて、すごく喜んだ。でもそれ以上に怖かったな。
今の私を君は覚えてないから。私だけが覚えているから。
もし願いが叶うのならば私の記憶も消えますように。
ガラガラ
「やっぱりここだ」
ゆっくりと開いたドアを見ると渚がいた。
何も言わずに渚は横に座って頭を私の肩に乗せる。
「だって……」
「大丈夫、大丈夫。きっと思い出してくれるよ、望」
――――――――――――
「疲れた~。もう眠いよ」
「もー雄志君、授業中ずっと寝てたでしょ」
ふふっと風香が笑う。
その美少女の笑顔に俺、海原雄志はドキッとして顔を窓の外に向ける。
「雄志授業中寝すぎ~」
「遥までそんなこと言うなよ。大輝も寝てただろ」
「大輝君はバスケで疲れてるじゃん」
「俺も疲れてる」
「いや、雄志は寝てるだけじゃん。ね?風香ちゃん」
「うん。そうだね」
「二人とも~」
俺が情けない声を出すと風香と遥から笑いがこぼれる。
昨日までちょっとピリピリしてた時もあったのにすっかり仲いいな。
「そういえば大輝たちは?」
授業が終わってから大輝や紗季、良太の姿がない。
「うーん、わかんないなぁ」
「私も知らないや。でもトイレとか?」
「いや、さすがに女の子一人と男子二人で行くか?」
「確かにそれはないか。女の子と男子でね」
「お、おう。紗季は女の子だろ」
「雄志君そういうところだめだと思う」
「うん。私も」
「え、なんで?」
「知らない!」「知りません!」
「二人とも~」
なんで俺怒られてんだよ~。紗季は女の子じゃん?え、ちがうの?
「おー私がどうした?」
「あ、紗季ちゃん。ううん、何でもないよ。どこに行ってたの?」
「ちょっとな。あれ、大輝たちは?」
「え、一緒じゃなかったの?」
「そっちにいると思ってた」
「噂をしたらなんとやら。帰ってきたぞ」
「お、集まってんじゃん。何話してんの?」
「いや、大輝君と良太君どこ行ったのかなって」
「え、風香俺のこと探してたの?」
「探しては無いよ?」
「辛辣……」
「良太どこ行ってたん?」
「大輝とちょっとね。様子見的な?」
「ふーん。そっか」
俺たちには知られたくないことがあるのだろうか。大輝と良太が一緒にいて紗季は別にいた。けど、何かありそうだな。
まあ、俺が詮索することではないか。
「今日も遥と雄志は生徒会か?」
「うん。そうだよ。明日で1学期最後だから整理とかいろいろだね」
「そっかー、がんばってな。大輝は部活だよな?」
「おう!夏の大会近いから頑張らんとな!」
「「「がんばれ~」」」
「適当だな、おい」
「なら風香は私と良太と帰ろう」
「うん」
いいな。
別に遥といることに不満があるわけではない。むしろ幸せで自分から選んだ道だ。
……でも。
風香ともうすこし一緒にいたい。まぶしい西日に目を細めながら横を歩く風香を見たい。
ほんと俺って駄目だな。わかってて生徒会入ったのに。
先生の話も終わり俺と遥はほかの4人と別れて生徒会室に向かう。
「バイバイ」
と言われたとき目を逸らしてしまった。なんとなく見るのが怖かった。風香じゃなくてその瞳に映る自分が。
まぶしい西日のせいで細めた目では、横にいる遥を見るだけで精いっぱいだった。
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