第1章 第24話 1+1の幼馴染と3人の幼馴染。あと一人

 「こんにちは、松原さん」

 「こ、こんにちは」


 私、新見遥が松原さんの一人を狙って声をかけた。

 雄志や篠原さんたちの邪魔が入らない時間を狙って。


 「ま、松原さんどうしたの?」

 「べつに用事は無いけどお話したいなって」

 「そ、そっか」

 「松原さんってかわいいよね」

 「ふぇ!?」

 「えーそんな声するんだ」

 「だって新見さんが変なこと言うんだもん」

 「ごめんって」

 「篠原さんや雄志、獅子原くんとかクラスというか学校中の人気者といるんだもんね。かわいくて当たり前か」

 「い、いや、私なんて新見さんや篠原さんに比べたら……」

 「いやいや謙遜しなくていいの」


 今この会話は外から見ればどう見えるだろうか。すこし控えめな女の子にも話しかけに行く優等生?それとも美少女たちの会話?そんなこと私にとってはどうでもいい。


 「松原さん、夏休み何かするの?」

 「ええーっと、篠原さんたちと海行きたいなって。後夏祭りも」

 「それは雄志も行くの?」

 「雄志君は海は行くけど夏祭りは用事あるから行かないって」

 「そっか」


 知ってた。少し前にあなたたちが話してた会話聞こえて海に行くの知ってたし夏祭りは私と行くし。

 知ってて聞いたんだよ、松原さん。

 

 「海ってさ5人で行くの?」

 「うん。多分だけど」

 「そっかー。私も行っていい?」

 「え?」

 「うそうそ冗談」

 「え、いや、多分大丈夫だけど……」

 「ほんと~?」

 「あとで篠原さんに聞いてみるね」

 「うん。私も一緒にお願いするね」


 私は悪い女だ。私の言うことを断れないと知ってて言った。

 私の手から雄志が出ていかないように。幼馴染が逃げられないように。

 成績優秀でみんなから慕われる新見遥は私じゃない。私はもっと弱くて臆病でだから強く見せなきゃいけない。もし私から雄志が離れそうでも私が「今」を離さない。

 どこにいってもずっと一緒だよ、雄志。


 ――――――――――――


 「…………ということなんだけど新見さんも招待していいですか?」

 「私はいいよ」「俺も」「僕も」

 「ありがと。海原君は?」

 「いいけど」


 どうなってんだ。俺らが外出てる間に遥と風香で何があったんだよ。

 どうして遥も海に行くことになったんだ?

 別にいいけど、そういうキャラじゃねーだろ。


 「ありがと。なら獅子原君と三木君と篠原さんこれから仲良くしてね」

 「おう」


 ほら、遥の完璧優等生オーラにさすがの篠原さんも引いてしまっている。

 しかも篠原さんと遥、風香がそろってしまうと……


 「おい、あそこは楽園か?」

 「獅子原達ずりーな」

 「俺らも混ぜろよな」


 などとすでに周りの男子どもが騒いでいる。やっと最近篠原さんたちと俺と風香がいても騒がれないように落ち着いたのに。

 なんか騒いでは無いけど周りの女子の目も怖い。なんか刺さるように痛いぞ。


 「え、えっと新見さんは松原さんの友達なのか?」

 「そうだよ、獅子原君。あと、雄志とは長い付き合いかな」

 「あぁなんか言ってたな。私らと良太みたいなもんか」

 「えっとどゆこと?」

 「私と大輝はずっと昔からの幼馴染なんだけどよ。そのあといろいろあって良太とも仲良くなったんだ。松原さんと海原が幼馴染なんだろ?」

 「そーなんだ!初めて知ったよ。なら同じ境遇同士三木君仲良くしてね」

 「う、うん。よろしく」

 「なら女子は松原さんと新見さんとうちか」

 「男子は良太と海原と俺だな。まって、松原さんの水着みれんの?」


 ガチか。俺絶対海行く。獅子原君、三木君その日まで生きような。

 

 「え、えぇ。あんまり期待しないで……。スタイルとかよくないし」


 うん風香、その謙遜はほかの女子に喧嘩売ってるよ?

 

 「おい大輝変な妄想すんな。でも、松原さんその体系でスタイル良くないはほかの女子に殺されちゃうよ?」

 「そうだよ!松原さんめっちゃ可愛いんだからかわいい水着着よ!」

 

 遥は遥でそれ喧嘩売ってる?女の子のかわいいは信用できないしあなたがかわいいっていうと喧嘩売ってるようにしか聞こえませんよ?


 「う、うん。ありがと」

 「そうだ!こんど3人で買いに行かない?私と篠原さんと松原さんで」

 「え、いいのか?私も今年、去年のがきつそうでさ」


 えっと、篠原さんそれは身長じゃないよね?僕ら男の子だからそこに目がいっちゃうよ?


 「ぐぬぬ。私もそんな小さくはないんだけど」

 「うぅ」


 二人とも落ち込まないで?

 俺は二人みたいなサイズが好きだよ!ちょうどいい感じ!


 「あ、今海原君へんなこと考えたでしょ」

 「ぐっ!」

 「雄志君……」

 「風香!?考えてないからね!?遥どうしてくれるんだ」

 「そんな顔してる雄志が悪い」


 俺どんな顔してんだよ。にやにやしてたんか?


 「あと、名前……。遥でいいの?」

 「いいだろ。この人たちは大丈夫」

 「そっか。なら雄志よろしく」

 「ほーん。下の名前で呼び合うんだ」

 「俺も海原のこと雄志って呼びたい。あと松原さんのことも」

 「大輝今のは絶対後半部分優先だったろ」

 「そ、そんなことな……イタイイタイイタイ!紗季ぐりぐりしないで~」

 

 ほんと篠原さんと獅子原君は仲いいな。


 「僕も下の名前で呼びたいな。その方が仲良さそうだし」

 「じゃあ三木君も賛成もらったし、雄志と松原さんは?」

 「「いいよ」」


 不意に重なった声に胸がドキっと跳ね上がる。

 陰キャあるあるだと信じよう。


 「じゃあ、遥ようこそ」

 「この6人で夏休み遊ぶか!」

 「大輝、推しメンの現場行こうな」

 「雄志から誘われるなんて泣きそう」

 「そんなこと言うなよ」

 「じゃあ、あと1日頑張ろうか」

 

 大輝が真ん中に手を延ばしながら、


 「大輝」

 

 それにならって時計回りで続ける。


 「紗季」

 「良太」

 「遥」

 「雄志」

 「遥」


 「俺たち幼馴染を超えた幼馴染として!いくぞ!」


 「「「「「「おー!」」」」」」


 掛け声とともに一斉に手を空に突き上げる。


 「なんの円陣だよ」

 「なんだっていいじゃねーか、紗季」

 「あと幼馴染を超えた幼馴染としてってなんだよ」

 「なんでもいいじゃねーか」

 「そればっかだな。ま、いっか」


 俺たちはいっせいに笑い出す。まるでこれまでずっと仲良かったかのように笑い続けた。

 

 この6人、そして生徒会のみんなと過ごす青春が笑いあう時間と同じぐらい泣いて悲しむことを俺はまだ知らない。



 






 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る