第1章 第23話 イケメンの君にもしもなれたら

 「迷惑じゃないから」


 なんなんだよ。

 がんばってそういう目で見ないようにしてきたのに、二人で家にいるときもそんな風に見ないようにしていたのにどうすればいいんだよ。

 とりあえず教室行くか。

 生徒会室を出て蒸し暑い廊下をゆっくりと歩いていると、


 「おー海原!おはー」

 「あ、獅子原君おはよ」


 朝練終わりだろうか、タオルを巻いた獅子原君がこちらに駆け寄ってきた。


 「めずらしいなこんなところで会うなんて」

 「うん」


 校門から教室にいくならいま俺がいるこの道は通らない。ここは基本的に部活生が部室に行くための道だが生徒会室に行くにもここの道を通らなければならない。

 

 「なにかあったのか?」

 

 どうしよう。生徒会に入ったこと今ここで言おうか。あとで風香や篠原さん、三木君たちにも伝えるつもりだったけど先に言ってしまおうか。

 いや、でもここは風香に先に伝えるべきか?でも、獅子原君に今ここで伝えなかったら獅子原君嫌な気持ちになるかもしれないし。

 やっぱり風香には一番に伝えたい。でも、獅子原君をないがしろにするのは嫌だ。やっとできた友達に嫌われるのだけは嫌だ。


 「あとでいいぞ」


 その一言だけ言って共通の推しグループの話を始める。

 多分、イケメンってこういうことなんだと思う。見た目がかっこいいとか性格がいいとかじゃなくて、その両方をもちつつちゃんと人を見れる人がイケメンなんだと思う。

 俺もいつかこんな人になれたらいいんだけどなぁ。ちょっと俺には難しいよな。

 

 ガラガラ


 教室のドアをあけると風香や篠原さん、三木君が固まって話していた。


 「おはよう」「おはー」

 「お、海原と大輝おはー」「おはよう」「おはよ」

 

 俺はとりあえず荷物を置いてみんなのもとにいこうとして遥の目の前を横切ると、


 「がんばれ」


 たったその一言が耳に届いた。教室に入ってからまだほとんど立っていないのに俺の顔をみて築いてくれたのだろうか。

 何に緊張しているのか聞かれても俺にはわからない。でもなにかに緊張している。いや、なにかを怖がっているのかもしれない。


 「みんなちょっといい?」

 

 風香たちが俺の顔を一斉に見る。ちょっとこれは苦手だ。人目が緊張してしまう。


 「俺さ、生徒会に入ることにしたんだ」

 「「「え!?」」」


 獅子原君と篠原さん、三木君の声が重なる。風香はなにも言わない。


 「理由とか聞いてもいいか?」

 「うん。みんな知っての通りうちの学校のくそ伝統のせいで生徒会の人数が3人しかいないんだよ」

 「あぁ。選挙でまけた派閥はどっかの委員会とかに飛ばされるやつか」

 「うん。それで会長と副会長が1年の男子で候補を探して俺になったらしい」

 「そっか。納得してんのか?」


 篠原さん、それは誰に対していってるの?

 俺に対して?それとも風香?遥?篠原さんや獅子原君、三木君たちに対してかな?


 「うん」


 俺はそれしか言えなかった。このせっかく仲良くなれた人たちを失いたくないからこそこれ以上何かを言ったら離れていってしまうかもしれないから。


 「雄志君、頑張ってね」

 「うん。ありがと」

 「そうだ!あした放課後暇か?」

 「明日?私と三木は暇だぞ。夏休みの課題しようっていってたから」

 「私も暇だよ」

 「俺も明日は生徒会ないはず」

 「ならさ、明日放課後遊ばない?」

 「いいな!でも大輝練習は?」

 「明日は職員会議でお昼に完全下校だからねーよ」

 「そっか!なら5人でいこーぜ」

 「私カラオケとか行きたい!」

 「カラオケ?松原さん行ったことないのか?」

 「う、うん」

 「そっか!なら明日はカラオケいこーぜ」


 という感じで明日はカラオケに行くことが決まった。

 やばい!どうしよう、おれもカラオケに行ったことなんてないぞ?

 というか推しグループの曲とアニソンしかわかんないけどどうしよう。

 最近流行りのバンドの曲とか聞いていくか?いや、さすがに1日では無理か……。


 篠原さんたちの席から自分たちの席に戻ると風香が、


 「雄志君」

 「ん?」

 「明日楽しみだね。すこし緊張するけど」

 「うん。今から楽しみだね」

 「ねえ、あのさ……」

 「ん?」

 「お昼ご飯は今みたいに食べてくれる?」


 今みたいにっていうのは獅子原君たち俺含めた5人でってことだろうか。


 「うん。もちろん」

 「そっか。うれしい」

 

 風香は1回深呼吸して続ける。


 「雄志君、生徒会頑張ってね」

 「ありがと」


 そのきれいで透き通るような瞳とは裏腹にスカートをぎゅっと握っている手に俺は気づかないふりをした。


 ――――――――――――


 「やっぱりここだ」

 「だって……」

 「大丈夫、大丈夫。きっと思い出してくれるよ、望」













 


 

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