第1章 第21.5話 「「いってきます」」

 タイマーにしていた冷房が切れて蒸し暑い朝に無理やり起こされる。

 まだ朝だというのに30度近くような気さえする。

 

 6時15分


 まだいつもなら二度寝する時間だけど閉じようとするまぶたを無理やり開けてまぶしいスマホの画面を付ける。

 とりあえずいつものようにゲームのログボと推しメンたちのSNS更新を確認してすべてにリプを送る。

 10分ぐらいでそれを済ませて重い体をベッドから引き離す。

 洗面台に行って顔を洗っているとだんだんと脳が起きてくる。

 ん?なんの匂いだ?

 ジュージューとなにか焼いている音が聞こえる部屋に入ると、


 「おはよう、雄志」

 「あぁおはよ、遥」


 遥が朝ご飯を作ってくれていた。

 ほとんど一人暮らしの俺を心配して週に何度か朝ごはんとお弁当を作ってくれている。

 一応俺も基本的な料理はできるが朝起きるのがマジでめんどくさい。


 「今日はなに?」

 「普通に目玉焼きとベーコンとサラダだよ」

 「普通のクオリティが高いな」

 「そう?お弁当はもう作ったからそこに置いといたよ」

 「おぉお母さん」

 「誰がお母さんだって?」

 「じゃあ、奥さん?」

 「は!?い、いいからはよ着替えて来い!」


 いつも通りからかっただけなのになぜか怒られた……。

 パジャマから制服に着替えるといつもより気が引き締まる。

 鞄の中は基本毎日一緒なのでそれをもってリビングに行くと遥が朝食の用意を終わらせていた。


 「わりぃ、弁当もご飯もありがと」

 「いーよ、それよりドレッシングだけ持ってきてくれない?」

 「うん。りょーかい」


 「「いただきます」」


 まずは、おいしそうなベーコンを口に運ぶ。うん、うまい。やっぱりベーコンはうまい。

 次に半熟の目玉焼きの黄身を崩してベーコンに絡めて食べる。

 これがマジで一番うまい。

 遥は朝のニュースを見つつ、たまにこちらを向きながら食べている。

 まって?これってやっぱりさ、もう夫婦じゃん。

 いや、夫婦まではいかなくても同棲カップルじゃない?

 でもどーせ言ったらおこられるんだろうなぁ。


 「なに?」


 きれいな顔で遥がにらみつけてくる。なんで朝俺より早く起きてこんな完璧なんだよ。


 「なんでもないよ。すっごくおいしい。ありがとう」

 「よかった」


 俺と遥は結構無言の時間も多いい。しゃべっているときもあるけどご飯食べたりぼーっと歩くときは結構無言だったりする。

 でも俺はこの時間が好き。俺と遥にしかない時間だから。

 正直、風香や篠原さんたちとはこの無言の時間はまだ無理だと思う。

 まだもうちょっとゆっくり朝を過ごしたいけど高校生の俺たちにそんな時間はない。

 しかも今日からおれも生徒会の一員として7時30分までには登校しないといけない。


 「「ごちそうさまでした」」


 テレビは、いつもなら占いをしている時間だけど今日はまだしていない。

 でもそろそろいかなきゃいけない。もうちょっと二人でいたいけど。

 食べ終わった食器をシンクにおいて俺と遥は玄関に向かう。


 「まさか一緒に登校する日が来るなんてね」

 「うん。思いもしてなかった」

 「生徒会でもよろしくね、雄志」

 「よろしく、遥」


 玄関を開けた瞬間にまぶしい太陽が俺たちを照らす。


 「「いってきます」」


 誰かと踏み出す朝はいつもより世界に色があるように思えた。



 

 


 





 




 



 

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